Top > Works > 動画撮影カメラを振り返る 第5回 (2025年1月18日掲載)
これまで使ってきた動画撮影カメラとその背景を振り返る連載記事の第5回です。この連載の趣旨は第1回の冒頭をご参照ください。
第5回は、4K動画の登場以降、現在に至るまでのデジタル一眼動画のトレンドをまとめてみます。デジタル一眼動画は6K・8Kへとさらに高画素化し、写真との画質差がかつてなく縮まりました。アマチュアユーザーの大半にとって、必要性を超えた画質の領域に突入しています。動画とセンサーサイズ、動画と写真の新たな関係など、いくつかのテーマについても考察します。しかし世界的にデジカメの需要は減退しつつあり、今後、その中でデジタル一眼動画がどうなっていくのか、展望を見通せないところもあります。
今回文中で紹介の動画は、いずれも掲載済みのものです。
第4回でも書いたとおり、GH5の画質及び使い勝手は満足のいくもので、民生用としてはこれで必要十分だという印象を受けました。しかし、デジタル一眼の動画機能は、4K・60fps記録に留まることなく、その後も様々な高画質化・高性能化が図られていきました。たとえば、センサーに関することでは、全画素読み出しによるオーバーサンプリング処理、センサーからの信号の高速読み出しによるローリングシャッター歪みの低減、あるいはグローバルシャッターによる歪みの完全排除、記録フォーマットに関することでは、色深度10ビット、色信号サンプリング比4:2:2、Log、HDR、RAW、低圧縮コーデック、120fpsなどです。そういった機能を採用するカメラが増えていく中で、2020年に「デジカメの高性能動画機種をまとめてみる 」というページを作成しました。
GH5にはあまり不満を感じていませんでしたが、各メーカーから次々と新たな高画質化の技術を盛り込んだカメラが登場する中で、あっちのほうが道具としてさらに面白そうだ、そろそろ新しいカメラを使ってみようという誘惑にかられ、2022年春にメインのカメラを乗り換えました。ちょうど、ビデオカメラからデジタル一眼カメラに乗り換えたときのように、必要性や実益よりも好奇心や趣味心に引っ張られてのことでした。新たなカメラを使って、4K以降の新機軸の中で私が実際に試してみた要素を挙げておきます。
動画撮影者のあいだで、写真と同じように動画でもRAWで撮れたら便利なのに、という期待は以前からありました。2010年代後半から、カメラ本体のHDMIから4KのRAW動画を出力して外部レコーダーで記録できる機種や、カメラ内部で圧縮RAWを記録できる機種が登場し始めます。デジタル一眼動画の場合、RAWといっても非可逆圧縮を適用しているため、写真のRAWとは完全に同じではありませんが、H.264やH.265で記録する動画よりも露出や色温度をかなり自由に調整できます。私は2019年末にブラックマジックデザインのBlackmagic Pocket Cinema Camera 4K(BMPCC4K)を導入し、何度かRAW撮影を試してみました。その顛末は「動画でRAW撮影を試してみる」にまとめています。
また、上記ページにもあるように、RAWを試したことをきっかけにHDR動画の魅力に気づき、販売作品のHDR版を試験頒布しました(「HDR版の作品フルバージョンを無償頒布してみる」)。
RAW動画の露出・色温度調整の柔軟性はたいへん魅力的でしたが、撮影時のファイル容量の負担が大きく、その後の常用には至りませんでした。また、HDRは4K以上の高解像度化よりもはっきりと従来の動画との違いがわかりやすく、とても将来性があると感じましたが、HDRは作品の購入者様に対応モニターが必要となり、現状では視聴環境が限られることが課題です。視聴環境が今より普及すればHDR版の頒布を再検討したいですが、HDRモニターはエントリー機種と上位機種とでまったく見え方が違うところも難点です。エントリークラスのHDRモニターではSDRと大して違わない視聴体験となり、HDRの良さが完全には発揮できないようです。
BMPCC4Kは、製品ジャンルとしてはデジタルシネマカメラに分類されます。基本的なカメラの構造は国内メーカーの普通のミラーレスカメラとほぼ変わりないですが、ミラーレスカメラとはだいぶ使い勝手が異なっています。たとえば、追尾オートフォーカス機能はありません。多くの場合、映画制作ではカメラと被写体の距離はコントロールされており、フォーカスはすべて手動で制御することが一般的だそうです。他方、シナリオがない現場で、自由に動き回る被写体をオートフォーカスで追う用途はあまり考慮されていません。
また、記録コーデックはBlackmagic RAWとApple ProResしかなく、いずれもビットレートはH.264やH.265に比べるとかなり高めです。そのため、動画ファイルの容量は大きく、ミラーレスの動画のようにH.265やH.264で高画質・低ビットレートの動画を収録することはできません。こういったことから、私の撮影環境ではメインカメラとするには至りませんでした。結局、掲載作品でBMPCC4Kを使用したのは4作品のみ、未公開のテスト撮影を含めてもそれほど使用機会は多くありませんでした。
「デジカメの高性能動画機種をまとめてみる 」の中で、RAW動画撮影のハードルが下がればオールイントラ記録・10bit記録・Log記録は微妙なポジションになっていくのではないか、と書きましたが、この見通しは間違っていました。その後、10bitやLog記録も試す中で、H.265などの高圧縮と併用できるそれらの要素ならではの恩恵も実感する機会があり、「RAW」と「10bit・Log」は用途・場面に応じて使い分けられるものだと認識を改めました。
BMPCC4Kの良かった点として、カメラが想定する用途がはっきりしていて動画の記録方式の選択肢が少ないことから、カメラ本体のメニュー構成はすっきりしていてとてもわかりやすかったです。国内のミラーレスカメラのメニュー構成が、写真・動画両方の著しい多機能化に伴って非常に複雑化しているのとは対照的でした。追尾オートフォーカスがない点、超高ビットレートの記録方式しかない点は使いにくいですが、それ以外の部分はむしろ使いやすかったと思います。
使用時期:2020~2021年
製品ジャンル:レンズ交換式デジタルシネマカメラ
メーカー・機種名:Blackmagic Design 「Pocket Cinema Camera 4K」(通称BMPCC4K)
センサーサイズ・有効画素数:4/3型 約880万画素
4K動画時の撮像範囲・信号読み出し方式:全幅・全画素
記録メディア:CFastカード・外付けSSD
4K動画ファイルコンテナ:MOV、BRAW
4K動画圧縮形式:Apple ProRes、Blackmagic RAW
最大記録画素数:4096x2160
4K動画最高フレームレート:60fps
4K動画ビット深度・色信号:10bit 4:2:2(ProRes)、12bit(Blackmagic RAW)
音声記録形式:リニアPCM
2022年には8K動画も試しました(「8K動画を試してみる」)。8Kは動画の記録画素数が写真に追いついたという点で画期的でした。高性能ミラーレスの8K動画からキャプチャした静止画フレームは、写真の画質とさほど遜色ありません。
8K撮影に使ったのは、ニコンのZ9です。価格的にも従来のカメラに比べて清水の舞台飛びのような選択でしたが、発表のときに動画カメラとして久々にわくわくしたものを感じた機種でした。Z9は、8K対応だけでなく、内部RAW記録を含めその時点での全部入りという感じで、且つ、レビューなどからオーバーヒート耐性がそこそこあって実用的な連続撮影時間を得られそうだ、という印象を受けました。
実際に8Kを試してみると、必要性を超えた8K動画の精細感はたいへん魅力的でした。写真がそのままヌルヌル動いている感じで、私が撮影を始めた初期から抱いていた「写真のような画質で動画が撮れたらいいのに」という願望がついに現実のものとなったことは感慨深くもありました。
作品用としては、記録解像度が大幅に上昇したのに色空間は従来のままというのもアンバランスではないかと考え、8K・HDRでの撮影を何度か試しました。しかし先述のHDRの視聴環境に関する制約から、8K・HDR版については一部作品の試験頒布に留まっています。HDRからSDRへの変換はダイナミックレンジかコントラストのいずれかが犠牲になり、まだベストの変換設定を掴めていません。8K・SDRで撮影すれば頒布のハードルはだいぶ下がりますが、それについては今後検討したいと思います。なお、「室内泥んこ その4」は掲載用作品としては初めて8K・SDRで収録しました。
一度だけ、8K・60fpsでのRAW撮影も試しました。作品は「メイクその21 クイズ制作過程」 としてリリースしています。撮影素材は35分という短さなのに動画は1TB近くの容量となり、これまででもっともストレージを消費した撮影となりました。RAW撮影をするとHDRとSDRの両方がそれぞれベストな露出で出力できるメリットがありますが、さすがにこの動画の容量では、常用は難しいと思います。
8K・SDR動画から、7680x4320のキャプチャ画像です。拡大画像表示後、さらに画像をクリックまたはタップすると等倍表示されます。
画像左上が、SD撮影からキャプチャした640x480ピクセルの画像です。8KとSDでこれほどのサイズの違いがありますが、ふだんの撮影にこれほどの情報量が必要なのかどうかは、まったく別の問題です。
レンズ交換式のカメラはレンズ装着の規格がメーカーごとに異なっています。例外がマイクロフォーサーズマウントで、規格はオープンになっており、パナソニック・オリンパスなど複数のメーカーが参入していました。BMPCC4Kもレンズマウントはマイクロフォーサーズだったため、レンズはパナソニックのGHシリーズと共用することができました。一方、Z9はニコンのZマウントのカメラです。Zマウントに移行することでレンズもすべて買い直しになります。しかし、新たなレンズマウントを使い始めるときだけにしか味わえない楽しみもあり、費用的な面を別にすれば、喩えるなら新居での新生活の始動に似ているところがあるかもしれません。
使用時期:2022年~
製品ジャンル:レンズ交換式ミラーレスカメラ
メーカー・機種名:ニコン Z9
センサーサイズ・有効画素数:フルサイズ 約4500万画素
8K動画時の撮像範囲・信号読み出し方式:全幅・全画素
記録メディア:CFexpress Type Bカード
8K動画ファイルコンテナ:MOV、NEV
8K動画圧縮形式:H.265、N-RAW
最大記録画素数:8256×4644
8K動画最高フレームレート:60fps(N-RAW)、30fps(H.265)
8K動画ビット深度・色信号:12bit(N-RAW)、10bit 4:2:0(H.265)
音声記録形式:リニアPCM
どこのメーカーでも最近のカメラはオートフォーカス性能の向上にも力を入れています。Z9も、人物・動物・鳥・飛行機など被写体の種類を認識し、たとえば人物が被写体のときは瞳にフォーカスが合うよう追尾するなど、被写体に応じて最適の挙動になるように設計されています。しかし、このような最新鋭のオートフォーカス機能を以てしても、パイ投げやメイクなどまみれ系の撮影では苦戦が見られます。いくつか例を挙げます。
一方で、上半身あるいは全身が映るくらいの引きの構図では、どんな素材をかぶっていても顔の部分を比較的正確に認識することが多いようです。引きの場合、目を閉じた状態で黒絵の具をかぶっても、目のあたりをフォーカス枠が追い続けます。ロングショットよりクローズアップのほうが瞳フォーカスが外れやすいというのは意外でした。オートフォーカスに関してはまだまだ改善の余地は大きいと思います。他のメーカーでも、まみれ系撮影との相性という点ではまだ完璧ではないと思います。
RAW・HDR・8K以外の高画質化の要素としては、10ビット記録は常用していますし、全画素読み出しとオーバーサンプリングによるメリットも享受しています。Log記録もときどき活用しています。それらの機能はどのメーカーも中級機以上では当たり前のように搭載していて、10年前を思うと、デジタル一眼の平均的な動画性能は大きく向上し、選択肢の多様性もかなり広がりました。一方で、オーバーヒートに関する問題は、まだ完全には解消されていません。
次項以降、私が使っているカメラからは離れて、デジタル一眼動画全般の現在のトレンドと課題を整理してみます。私が特に関心を持っているいくつかのテーマについても、考察したいと思います。
先述のように、現在、どのメーカーも中級機以上は動画機能にかなり力を入れるのが当たり前になっています。各メーカーの強化の方向性、それはユーザーの求める方向性と言い換えてもいいと思いますが、そのトレンドをまとめると、次のようになると思います。(映像に限定し、音声に関するものは省略しています)
これらの諸要素の多くは最近になって急に要求され始めたものではなく、4K動画の登場以前から、将来的に民生用カメラに採り入れられることが期待されていました。2014年に掲載した「撮影機材ガイド デジタル一眼動画の基本情報編」の「その他のキーワード」をご覧いただければ、当時から上記の要素の多くが動画ユーザーのブログや噂サイトでよく触れられていたことがご推察いただけると思います。
上記のうち「オープンゲート」は比較的最近よく言及されるようになった要素です。動画はたいていアスペクト比16:9で記録されますが、デジカメのセンサーのアスペクト比は、16:9よりも縦長の、3:2または4:3が主流です。そのため、動画時のセンサー全画素読み出しを謳う機種でも、動画撮影の際にはセンサーの上下はトリミングされて撮像範囲から外れます。ここで、オープンゲートモードが選べるカメラは、動画撮影の際に上下のトリミングをすることなく、アスペクト比3:2や4:3で、センサー全域を撮像できます。これによりトリミング耐性が上がって編集時の構図選択やアスペクト比選択の自由度が高まる、あるいはアナモフィックレンズ(編集時に引き伸ばすことを前提に像面の横方向を光学的に圧縮するレンズ)の使用の際に画質面で有利になるなどのメリットがあるようです。基本的には映画制作者向けの機能です。
最大の難関は、高画質化とオーバーヒート耐性の両立です。熱耐性が注目されるようになってから、メーカーの製品ページ、デジカメ専門サイトの記事、ユーザーのレビューなどで、「この新機種は4K60Pでオーバーヒートによる停止が発生するまでに○○分撮れた」といったような、熱停止までの連続撮影時間に関する記述を目にすることが増えました。ここで注意を要するのは、熱停止までの連続撮影時間は、撮影環境や記録モードの細かなオプションによって、大きな差異が生じるという点です。以下のような諸条件がすべて書かれていないと、あまり参考になりません。
このように、熱耐性を左右する条件は多数あります。特にメーカー公式の製品紹介や、メーカーから機材の提供を受けて紹介の記事を書いている場合には、一口に「4K60Pで何分連続撮影」と言っても、最も連続撮影時間が長くなる条件、すなわち画質面ではその機種のベストではない設定による撮影に基づいて書いていることがあります。
しかしそれでも、数年前に比べると、各メーカーの熱耐性に対する意識と取り組みは格段に強まりました。2020年頃に発売されたカメラの製品ページは、この機種にはこれだけの先進的な動画機能を詰め込みました、という視点が中心で、熱耐性はそこまで重視されていない雰囲気でした。8K動画が撮れるけど熱停止まで10分持続しない、というような機種もありました。しかし、2024年に発売された各メーカーの話題の機種は、いずれも前身機種と比べた場合の動画撮影時の熱耐性向上をセールスポイントの一つにしていて、メーカーもユーザーも以前より熱耐性に注目するようになっていることが窺えます。
オーバーヒート対策として、ボディの放熱性能を上げるために、冷却ファンを内蔵するという手段があります。実際にそのような機種もいくつか発売されています。しかし、冷却ファンの内蔵は、消費電力が増えてバッテリーのもちがわるくなる、本体がそのぶん分厚くなるなどのデメリットがあります。写真をメインに撮影するユーザーには冷却ファンは不要であり、不評です。そのため、冷却ファンを外部ユニット化して、別売のオプションとして必要なユーザーだけが導入するという形式にした機種も登場しています。その他、様々なデジカメに装着できるサードパーティー製の冷却ファンもあります。
さて、これだけ盛んに各メーカーで熱耐性のことが言われるようになって、改めて、パナソニックのGHシリーズが熱耐性に関していかに優秀だったかを思い知ります。2011年から2024年まで、10年以上にわたってGHシリーズを使いましたが、真夏の炎天下での干潟撮影を含めて、オーバーヒートによる停止には遭遇しませんでしたし、高温警告すらも一度も見ませんでした。
一方、2022年から使っているZ9ではオーバーヒート警告に何度も出くわし、そのたびに撮影設定を少し変えるなどの手間を取られています。Z9は最近のカメラの中では比較的オーバーヒート耐性があるほうですが、それでも画質の設定によってはそのような状況です。
先ほども書いたように、GH5から別のカメラへの乗り換えは、性能的な不満によるものではありません。熱耐性のことを気にする必要があるならば、GH5でままでもよかったのではないか?と思ってしまうことすらあります。
デジタル一眼カメラのセンサーサイズは4/3型(フォーサーズ、約17x13mm)、APS-C(約24x16mm)、フルサイズ(約36x24mm、35mm判フィルムの写真と同じ撮像面積)が代表的です。10年前には4/3型にも一定の需要と人気がありましたが、最近はフルサイズとAPS-Cが強く、4/3型は最盛期に比べると勢いがありません。ソニー・キヤノン・ニコンはフルサイズとAPS-Cの両方のカメラを開発していますが、3社ともエントリー向けにもフルサイズの機種をラインナップし、販売戦略としてAPS-Cよりもフルサイズに重点を置いていることが窺えます。デジカメ業界全体として、フルサイズ推しの傾向がかなり強まっています。
写真の表現において背景のボケが好まれること、35ミリフィルム時代からの写真文化の継続性、これらのことから写真においてフルサイズセンサーが主役となるのは自然な流れだと思います。一方で、動画、特に記録映像的な動画を撮る用途においてフルサイズセンサーが最適かどうかは、一考の余地があると思います。動画にフルサイズセンサーは大きすぎるのではないか、というわけです。
フルサイズは背景のボケ方が大きく、そうした構図は被写体が引き立ち印象的ではありますが、そのぶん、フォーカスが外れたとき、たとえば手前の人物から背景にピントが抜けてしまうなどの場合のダメージも大きくなります。動画は写真のように1フレームだけジャストフォーカスであればOKというわけにはいかず、撮っているあいだ連続的に合焦し続けることが求められます。そのため、動画は写真以上にピントやボケ方のコントロールが難しく、気を遣います。
フルサイズの場合、パンフォーカス(被写体全体にピントが合った状態)で撮ろうとすると、レンズの絞りをかなり絞る必要があります。絞ったぶん、明るい光量を確保するか、ISO感度設定を上げる必要があります。撮りたいのが映画ではなく記録映像で、ボケをそれほど必要としないのであれば、APS-Cや4/3型でも十分に役目を果たせます。
35ミリフィルムの写真とフルサイズセンサーのデジカメは撮像面積が同じですが、35ミリフィルムの映画に関しては、実はAPS-Cサイズのほうが近似しています。写真・映画とも同じ35ミリ幅のフィルムを使いますが、写真の場合はフィルムを横送りする(フィルムの幅が写真1コマの短辺側になる)のに対し、映画ではフィルムを縦送りする(フィルムの幅が1コマの長辺側になる)ためです。
すなわち、デジタル一眼のフルサイズの動画は、従来のフィルムでの映画制作時代よりもボケ方が強いということになります。ただし最近は映画もデジタルでの制作が主流となり、デジタルシネマカメラにはフルサイズセンサーのものが増えているため、これはフィルム時代との比較です。
ボケを求めず、記録映像的なものをパンフォーカスで撮る用途であれば、高感度性能とのバランスを考慮しつつ、1型~APS-Cサイズくらいが最適解ではないか、という気がしています。もちろん、フルサイズカメラでもレンズを絞りさえすれば十分過ぎるほどにそうした用途に使えますし、不適というわけではまったくありません。しかし、動画目的であれば、フルサイズ至上主義的な捉え方はいったん脇に置いてもいいと思います。
従来型のビデオカメラがセンサーサイズをはじめとする基本仕様に関して長年にわたり変化に乏しかったのに対し、それよりも後発のデジタル一眼の動画機能は急速に進歩し、ビデオカメラの需要を奪うまでの存在になりました。2025年現在、スマートフォンよりも高画質な動画を撮影しようと思うなら、ほぼミラーレスカメラ一択という状況になっています。従来型のビデオカメラの中にはiPhoneのカメラよりもセンサーサイズが小さい機種があったり、ビデオカメラよりスマートフォンのほうが綺麗に撮れることも珍しくありません。今なお用途によって最適解は異なりますが、たとえばヨドバシカメラに行って、なるべく高品質の動画を撮りたいのでお勧めを教えてほしいと店員さんに言えば、たいてい、ミラーレスカメラの売り場に案内されると思います。
いつ頃にビデオカメラとデジタル一眼動画の地位が逆転したかについては、カメラの販売金額でのシェア、台数でのシェア、その他ユーザー個々人の主観的な指標、様々な見方があると思います。私は、デジタル一眼に4K動画対応機種が増えた2016年頃が画期だったという印象を持っています。その頃には、ある程度の基礎知識があるユーザーのあいでも、販売店のあいだでも、動画機材はまずデジタル一眼カメラから検討する(あるいは勧める)というのが多数派になり始めていたように思います。つい先日、ヨドバシカメラ梅田店に行くと、デジタル一眼カメラはメーカーごとに広い売り場が確保されていたのに対し、従来型のビデオカメラの売り場は同じフロアの隅に申し訳程度に設置されていました。
このようにビデオカメラとデジタル一眼カメラは対照的な状況になっていますが、デジイチ動画登場以来のこの16年間、両者の違いを分けたのは何だったのでしょうか?
デジイチ動画の盛り上がりのきっかけは、5D Mark IIやGH2が動画ユーザーのあいだで人気を博したことでした。それ以来、デジカメメーカーも徐々に動画機能を重視するようになっていきます。これもわりとよく知られたピソードですが、パナソニックの動画重視路線は最初から意図していたものではなく、マイクロフォーサーズマウントのLUMIXシリーズの起ち上げの際には「女流一眼」を標榜して売り出していました(LUMIX Magazine「【Vol.2】「マイクロフォーサーズ」を立ち上げ、LUMIXを「道具」として進化させた技術者の話」)。製品発表や宣伝において動画を全面的に押し出すようになったのは、「GH1」・「GH2」の動画機能がユーザーに評価された後、「GH3」以降のことだったと記憶しています。5D Mark IIもGH2も、メーカーの想定以上に動画機能がユーザーのあいだで好評を得て、その反応を受けて、ユーザーの声をフィードバックする形で後継機種でさらに動画機能の強化を図るようになっていったという経緯がありました。
すなわち、デジタル一眼カメラの動画機能は、最初からメーカーが明確なプランを描いて発展させたというよりは、想定以上のユーザーの反応をきっかけに、ユーザーの要望をメーカーが積極的に採り入れ、新機種が出るごとにユーザーがさらに高みを求めるというような、ある種のユーザー主導の構造によって向上してきたのではないかと思います。そのため、4K、高ビットレート、イントラフレーム圧縮、全画素読み出しによるオーバーサンプリングなど、高画質化のための様々なオプションが次々と新機種に取り込まれていきました。メーカーによって熱心さの程度は違っていましたが、動画重視のメーカーが先陣を切って採り入れた機能が数年後にはデジカメ業界全体でごく普通の機能になっているというような形で、底上げが進みました。4K動画機能はその最もわかりやすい事例だと思います。
このような動画機能向上のサイクルは、連載第2回の末項、「変化に乏しかった基本構造」で書いたような、守旧的で硬直した民生用ビデオカメラには見られなかったものでした。ビデオカメラは動画機能がメインであり、且つ、我が子の運動会や入学式・卒業式などの学校行事を記録するというファミリー需要を重視して「そこそこの画質で、簡単に、長時間安定して撮影ができること」を至上命題にしていたと思います。ビデオカメラを買い求める消費者はカメラ好きとは限らず、特にスマートフォン全盛以前、他に動画を撮れる道具がないから仕方なくビデオカメラを買うという層のほうが多かったとすれば、道具としての先進性と安定性のバランスにおいて後者のほうがはるかに重要です。そうであるなら、安定性に欠けるような新機能は採り入れにくかったと思います。たとえば、革新的な新機能を載せたけど卒業式を撮っていたらオーバーヒートでカメラが停まったというような状況は論外です。
対照的に、熱心なデジタル一眼動画ユーザーの基本姿勢は、新機能に欠点や弱点があることも承知しているが、それでも尖った最先端の機能を使ってみたい、というのものであり、だからこそメーカーも要望を汲み取りやすかったのだろうと思います。
しかし、繰り返し書いていますが、デジタル一眼動画の隆盛の一方で進行しているビデオカメラという商品ジャンルの衰退は、ユーザーにとって不利益もあります。このページでも書いているように、デジタル一眼動画はオーバーヒートに気を遣う必要があります。今なお画質よりも連続撮影の安定性が重視される撮影環境は多いですし、そのようなニーズにおいては最近のデジタル一眼カメラは性能過剰であり、初心者が簡単に使えるという点でもビデオカメラのほうが適しているでしょう。最近のデジタル一眼であれば長時間の連続撮影に適した録画設定を備えた機種もありますが、連載第4回で書いたとおり、昨今の機種の動画スペックはとても複雑化しています。カメラに詳しくないユーザーが目的に合った機種を選べるかどうかがまず難関ですし、そうした機種を選んでも、目的に合った録画設定をスムーズに選べるような親切な設計になっていないのが実状です。
そして、デジタル一眼カメラもまた市場は縮小傾向で、スマートフォンに需要を奪われている存在です。カメラメーカーは以前のような薄利多売型の戦略を採りにくく、中級機以上の付加価値を高めて以前よりも高く売る路線へとシフトしているため、新製品の価格は上昇しています。これも以前何度か懸念を書いていますが、このままそうした傾向が続くと、「プロ用の超高価な機材か、それともスマートフォンか」という極端な二極化が起きてしまいかねません。
最近の高性能ミラーレスカメラの6K・8K動画からキャプチャした静止画フレームは、もう写真の画質との区別が難しい水準に達しています。「高画質の動画」と「高画質の写真」を同一のカメラで撮ることができるようになっています。これにより、「動画」と「写真」の関係性において、以前は考慮する必要のなかったいくつかの問題が生じているのではないか?というのが本節のテーマです。
最初に両者の関係について若干の整理が必要です。まず、作品やコンテンツとしての「写真」(1枚の静止画フレーム)と「動画」(時間的に連続した静止画フレームの集合体)はまったくの別物です。そして文化的営為やユーザー体験として「写真の鑑賞」と「動画の鑑賞」も全然別物です。
写真や動画を作る過程に関しても、「構図を考えカメラを構えてシャッターを切り、1枚の写真を記録する」という行為と、「何らかの動きのある被写体を動画として記録する」という行為は、明らかに別物です。どれだけ動画の高画質化が進んでも、写真趣味の人が動画素材からキャプチャしたものを以て自分が生み出した写真作品として満足を覚えることはおそらくないでしょう。「その場で記録すべき瞬間を判断し、シャッターを切る」という体験こそが写真趣味の根幹だからです。ただし、動きの激しい被写体からベストの1枚の写真を得るためにカメラの連写機能を利用することがありますが、この場合は写真撮影と動画撮影の境界がやや怪しくなります。
さらに目を転じて、写真や動画を生み出すカメラに関してはどうでしょうか。現在ではスマートフォンやデジカメで動画・写真の両方を撮れるのが当たり前です。プロの分野ではともかく、民生用の分野では写真カメラと動画カメラは2010年代半ばの時点で既に融合していました。デジカメ登場の2000年代以前は、写真を撮るならフィルムのスチルカメラ、動画を撮るならビデオカメラとはっきり役割が分かれていたことを思えば、一つの機材で動画・写真の両方を撮れるだけでもかなり大きな変化です。
2008年にはラージセンサーのデジタル一眼カメラでも動画が撮れるようになり、2010年代以降、デジタル一眼動画のさらなる高画質化が進みます。少し前までは動画からキャプチャした静止画は写真に比べて画質面で劣りましたが、6K・8K動画の登場によって、動画からキャプチャした静止画と写真の画質がかなり接近しつつあります。さらに、写真の連写機能も向上し、秒間30~60枚の連写ができるカメラも登場しています。ここに至り、新たな問題が提起されます。写真の連写と動画の境界線はどこにあるでしょうか? 昨今の超高度な連写機能によって撮られた写真を写真作品と見做すならば、動画素材からキャプチャした1フレームも、「写真作品」を名乗る資格はあるでしょうか?
少し前までは、「毎秒5~10枚ほどのフレームレートで1~2秒間シャッターを切った連写の写真から1枚選ぶ」という程度だったものが、最近の高性能カメラでは、「毎秒30枚のフレームレートで30秒間シャッターを切った連写の写真から1枚選ぶ」ということも可能になっています。後者のような撮影素材と選択の行為は、もはや動画キャプチャに限りなく近いと言わざるをえません。この点においては、写真撮影と動画撮影は部分的に融合しています。
あるいは、これはまだ突飛な仮定かもしれませんが、今後、「その場で記録すべき瞬間を判断し、シャッターを切る」という部分が写真の根幹だとは考えない、新たなタイプの写真愛好家が現れたらどうなるでしょうか。写真並みに高画質化した昨今の動画を素材として、そこから切り取った1枚のフレームを撮影者が写真作品として提示した場合、それは従来の写真文化の中で「写真作品」として扱われる資格があるのでしょうか? それを写真作品と見做さないのであれば、動画に限りなく近づいた高度な連写機能を利用して撮った写真と、本質的に何が違っているのでしょうか? 私はこの点に関する整合性のある答えを持ち合わせていません。従来は動画に対する写真の画質の優越がこういった問題を回避していましたが、その前提が崩れ始めています。
ただし、どれだけ動画が高画質化しても、「動画作品」と「写真作品」の両方を単一の動画素材から賄えることを意味するものではありません。「8K動画を試してみる」の中でも書いたように、動画と写真それぞれにおけるシャッタースピード・絞り・構図・ピントの挙動などの最適解が異なっています。極端な例を挙げれば、シャッタースピード1/4000秒・フレームレート30fpsで撮った公園の噴水の動画は、コマ落ち動画あるいはパラパラ漫画のようになってしまい映像表現としてとても違和感があるはずです。しかし、繰り返しになりますが、上記8K動画ページの記述を引用すれば、「動画としての自然な映り方を目的とせず、動画データの中から写真として使えるフレームを切り取ることを目的として、写真的な設定・構図で動画を撮る」ことは可能です。そしてそのようにして切り取られたフレームは、もう写真との画質差を見分けるのが難しい水準にまで来ています。
動画の高画素化・高画質化とは別に、民生用商品の分野でのデジカメとビデオカメラの統合を象徴するように思える出来事が、2021年に起きました。ニコンのミラーレスのフラッグシップ機種が、メカシャッターを廃止したことです。
従来、デジカメのシャッターの仕組みには大きく分けてメカニカルシャッター(メカシャッター、物理的な機械シャッター)と電子シャッターの2種類がありました。デジタル一眼カメラで使われているメカシャッターはフォーカルプレーンシャッターと呼ばれる方式で、フィルムの一眼レフカメラの時代から連綿と受け継がれてきたものです。ビデオカメラやスマートフォンでは電子シャッターのみが使われています。詳細な説明は省きますが、電子シャッターは動画撮影に対応できることも含め様々な利点がありながら、高速で動くものを撮ると像が斜めに歪むという欠点がありました。それとは対照的に、写真用のメカシャッターは動画撮影には対応できないが、被写体の動きが速くても像の歪みが少ないという長所があり、レンズ交換式のデジカメはほぼ例外なくメカシャッター・電子シャッターの両方を搭載していました。
ビデオカメラは写真機能をそこまで重視しないためもともとメカシャッターを省略する機種が大半ですが、そうした中で、2015年のキヤノンのビデオカメラ「XC10」は、わざわざメカシャッター搭載をセールスポイントとして押し出し、写真とビデオの両方を重視した機種であることをアピールしました(XC10のプレスリリース)。このことは、当時メカシャッターの有無はデジカメとビデオカメラを分ける要素の一つだったことをよく示していると思います。
しかし、電子シャッターで高速の被写体が歪む欠点については、センサーからの信号の読み出し速度を超高速にすることで像の歪みを大幅に軽減することが可能であり、さらにグローバルシャッターと呼ばれる従来とは異なる方式の電子シャッターを採用すれば、像の歪みを完全になくすことが可能だと見込まれていました。実際にそうした方向に沿ってセンサーの製造技術が着実に進歩し、2021年に発表されたニコンのミラーレスデジカメのフラッグシップ機種「Z9」は、超高速読み出しを可能とする「積載型」と呼ばれるセンサーの採用により、メカシャッターの搭載を廃止しました(Z9発表時のデジカメWatchの記事)。
さらに、2024年のソニーα9IIIはデジタル一眼カメラとして初めてグローバルシャッターを採用し、高速に動くものを撮影した際の歪みを完全に排除しました。今のところメカシャッター廃止機種は少数派ですが、エントリー機種ではなくフラッグシップ機種にメカシャッターを廃止したものが登場したことの意義は大きいと思います。一眼レフからミラーレスの移行に伴い光学式ファインダーがなくなりましたが、メカシャッターの廃止により、フィルムカメラ時代からの継承物がまた一つ、消えることになります。ソニーα9IIIやニコンZ9の基本構造は、レンズ交換が可能という点を除くと、ビデオカメラ・スマートフォンと同じです。「フラッグシップ機種におけるメカニカルシャッターの廃止」という一点で見れば、写真カメラと動画カメラがこれまで以上に融合し始めたと見ることができます。
これまで5回にわたってこの20年間の動画カメラの変遷とその背景について書いてきました。カメラに関心がない方にとっては細かな技術的な話が多くて面白味に欠け、もともと動画カメラに詳しい方にとっては掘り下げ方が浅く物足りない、中途半端な内容になってしまったかもしれません。2005年当時のビデオカメラと比較すれば、今のミラーレスカメラの動画機能はどれも十分すぎるほどです。その変化の大きさをまとめて、関心のある方にお伝えしてみたいと思ったことが連載のきっかけでした。
最後に余談として、本編で取り上げていない側面から、これまでの変化を振り返ってみます。カメラを選ぶ際、店頭での印象以外に、たいていネット記事や実際に使っている人のレビューも参考にしてきました。そうした「動画カメラへの評価」の中で、私の印象に残ったものを3点、挙げておきます。それもまた、この20年の変化を端的に示しているように思えるからです。
一つは、たしか2005年の夏頃だったと思いますが、屋外で行われたイベントをDVカメラで撮影に行った際、連載第2回でも取り上げたソニーのハイビジョンハンディカム「HDR-HC1」を手にしているアマチュアカメラマンの方がいました。私よりだいぶご年配の方だったと思います。当時話題のビデオカメラで私もいずれ欲しいと思っていた機種でしたので、話しかけてHC1について少しお話しをさせていただいたのですが、会話の中でその方がHC1を評した一言が、「ハイビジョンが撮れるおもちゃ」というものでした。たしかに、当時のHC1がハイビジョンといったところで、NHKで使われている放送用のハイビジョンカメラに比べれば、レンズ・センサー・コーデックあらゆる部分で画質的に比較にならないクオリティだったと思います。おそらくその方はカメラを貶める意図でそのように表現したのではなく、自分はそんなに大したカメラを使っているわけではないですよという謙遜と、業務用・放送用まで比較の対象を広げた場合のHC1のクオリティと立ち位置についてユーモアをこめて表現されたのだと思います。そのときも私は「ハイビジョンが撮れるおもちゃ」という寸評は言い得て妙だと感心しました。
翻って、最近のミラーレスカメラの動画機能は、業務用途まで比較の対象を広げても、もはや「4Kが撮れるおもちゃ」とは言えないクオリティになっています。Netflixはオリジナルドラマなどの配信コンテンツに関して、撮影に使用してもよいカメラと画質に関するガイドラインを定めており、その基準は日本のテレビ局よりも厳しいくらいですが、一部のミラーレスはNetflixの認定カメラリストに含まれています。HC1が「おもちゃ」だった当時を思えば隔世の感があり、素人でも少し頑張って手を伸ばせば、Netflixのドラマ収録に使われる本格的なデジタルシネマカメラと比べてもそこまで画質に遜色があるわけではないミラーレスの高性能動画カメラが使えるわけです。
2つめは、2010年11月にAV Watchに掲載されたパナソニックGH2に関する小寺信良さんのレビュー「動画世界にやってきた「化け物」、Panasonic DMC-GH2~ もう待たない、オレこれでいいわ ~」です。たいてい、小寺さんのレビューは機材を褒めるのもけなすのも抑制的ですが、このレビューに関しては「もう待たない、オレこれでいいわ」という印象的なサブタイトルが付いていました。私がGH2を買うきっかけにもなりましたが、実際に私がGH2を使って受けた印象もまた、「オレこれでいいわ」という感覚に近いものでした。それまでのビデオカメラでは、新機種を手に入れても、光学的な性能が記録フォーマットの限界に達していないのでは?という印象が残ったのですが、デジタル一眼動画の登場により、ようやくフルHDの限界を目一杯活かしていると思えるカメラが現れました。もちろん、重箱の隅をつつけばいくらでも改善が望まれる点はありましたが、第一印象として「現状ではもうこれで十分だ」と感じた機種はGH2が初めてだったような気がします。ビデオカメラという商品ジャンルでは、そのように感じる機種についに遭遇しませんでした。今なお販売動画においてはフルHDが主流であり、4K収録が必要ない場合には、2025年現在でもGH2を使って必要十分な画質の作品を制作することはおそらく可能です。
3つめは、一気に時間が飛びますが、2022年にニコンZ9の8K動画機能を試したときに私自身が感じた第一印象です。カメラテストで鉄道の跨線橋から8Kの動画を撮って、家で動画からキャプチャした静止画を見たときに、「これって、もう写真のクオリティでは?」と感じました。以下に転載していますが、「8K動画を試してみる」の「風景画像で比較してみる」の欄4枚目の画像がそれに該当します。HC1のハイビジョン動画からのキャプチャと写真の比較は言うに及ばず、GH4の4K動画からのキャプチャ画像でも、同じGH4で撮った写真に比べるとはっきりわかる画質差があり、「写真」と「動画からのキャプチャ」にはまだまだギャップがあることを再確認したものでした。しかし、8K動画に関しては、散歩中に即席で撮った動画を素材としているにもかかわらず、キャプチャ画像に写真との大きな画質差を感じませんでした。その点は大きな驚きでした。そしてそれは、もはや私のような用途においては必要性をはるかに超えた世界でもありました。
このように動画カメラは、高画素記録の画質に関して、「おもちゃ」から「必要十分」へ、さらには「必要性を超えた世界」へと展開してきたと要約することもできます。本格的な業務用途なのか、私のようなアマチュアの自己満足の世界なのか、どこに評価の起点を置くかによって見方に違いはあると思いますが、総体として大きな進歩を遂げてきたという点は間違いないでしょう。
今後、デジカメ自体の需要が減少していく中で、動画カメラがどのような方向性で進化していくのか、少し想像がつかないところもあります。CineDの記事「スペック競争を止めよ」のように、現在のデジタル一眼の動画機能はすでにオーバースペック(過剰性能)であり、使いやすさなどユーザー体験の向上に進化の方向性を振り向けるべきであるとする見方も出ています。
未来はデジカメ業界以外の要因にも左右され、国際情勢の変化は激しく、国内主要メーカーの先行きすら予断を許しません。それは過去の歩みにも当てはまることで、たとえば、20年前の時点では、ソニーが2020年代にハンディカムやコンデジではなくレンズ交換式の写真カメラの分野でトップシェアになるということを予想していた人は、ほとんどいなかったと思います。あるいは、今から40年前、1985年の世界にタイムスリップして、2025年にはニコンよりソニーのカメラを使っている人のほうが多いよ、とプロやアマチュアのカメラマンに言えば、「またまた、ご冗談を!」という感じで、誰も信用してくれないことでしょう。当時、ソニーは写真カメラ開発には参入していませんし、ビデオカメラと写真カメラはまったく異なる製品ジャンルでした。この20年、40年でそれくらいに予想のつかない変化があったわけです。一方、デジカメでそのような大きな成功を得たソニーを以てしても、スマートフォンでは世界的に大きな存在感を発揮するには至っていません。
競争相手はもう国内メーカーだけではなくなっており、特にドローンやアクションカム分野、デジカメ用の交換レンズの分野では中国のメーカーの存在感も高まっています。変化の要因はこれまで以上に増えていると言えるでしょう。スマートフォンもますます進化していくとすれば、デジカメの需要がどれくらい残るかに関して、カメラメーカーの努力だけでは限界があると思います。すべてスマートフォンで十分だと感じる消費者が今以上に増えていけば、仕事で必要なプロと物好きのごく一部のハイアマチュアだけが買う超高価なカメラだけになっていくという未来は不可避だという見方をする人もいれば、いやいや、もともとカメラは生活必需品ではなく、むしろ誰もがデジカメを買っていた2000年代~2010年代前半が特異な状況だったのだ、昔のフィルムの一眼レフ時代に似た位置づけにデジカメも戻っていくのだと思えば、一定のカメラ需要は残るだろうから、それほど悲観する必要はない、という見方をする人もいます。あるいは、カメラメーカーが写真撮影や動画撮影に関してスマートフォンにはできない新たなユーザー体験を提案し、それを実現する魅力的な製品を高すぎない価格帯で供給することで、需要の減少を食い止めることは可能だという積極的な展望を持つ人もいます。私にはどのような見方が正解なのかわかりませんが、これからも引き続き、動向を追っていきたいと思います。
ここまで動画カメラに焦点を当ててきましたが、この連載の延長で、パソコンでの動画編集やテレビ番組の録画環境に関する話題も取り上げたいと考えています。どれくらいのボリュームになるか、まだ見当が付いていないのですが、何らかの形で、いずれまとめてみたいと思います。
また、ここまでの連載をご覧いただいて、機材に関する思い出話、苦労話がありましたら、メール等でお寄せいただければと思います。