Top > Works > 動画撮影カメラを振り返る 第4回 (2024年8月3日掲載)

動画撮影カメラを振り返る 第4回 4Kと動画スペックの複雑化

これまで使ってきた動画撮影カメラとその背景を振り返る連載記事の第4回です。この連載の趣旨は第1回の冒頭をご参照ください。

第4回は、4K動画の撮影を始めた2014年以降を取り上げます。この時期の特徴は、民生用の動画機材がテレビ放送波のフォーマット以上の高画素記録に対応し始め、HDV・AVCHDなどビデオカメラの「統一規格」の役割が終わったことだと思います。しかし一方で、動画機能の高性能化に伴ってデジタル一眼カメラの動画のスペックシートはどんどん複雑化し、ユーザーが機能の全貌を把握するのが難しくなっていきます。

今ひとつまとまりに欠ける内容になりましたが、前回からだいぶ経っているため、このあたりで載せておきます。今回文中で紹介の動画は、いずれも掲載済みのものです。

デジタル一眼動画を使ってみる その2 2014~2022年

4K動画の登場

2014年半ばから4K動画対応のミラーレスカメラを使い始めましたが、この記事を書くにあたって当時を思い出してみると、「4K」という言葉を最初に目にしたのはいつ頃か、記憶は定かではありません。デジタル一眼カメラでもっとも早く4Kに対応したのが2012年12月発売のキヤノン「EOS 1D C」でしたが、その頃には既に、デジカメの噂サイトやデジタル一眼動画のノウハウブログで盛んに4K絡みの記事や噂が出ていたような記憶があります。そうした情報を見て、そうか、もうすぐデジタル一眼カメラにも4K動画機能が降りてくるのか、と思ったものです。

従来のフルHDについては、テレビの地デジやBSデジタルのハイビジョン放送という実例を通じて、民生用でもこのような高解像度の動画が撮れたらいいのに、というニーズをユーザーに広めました。一方、4Kに関しては、2014年にはまだ4Kのテレビ放送はなく、上記のEOS 1D Cの他に業務用ビデオカメラのごく一部とREDなどのデジタルシネマカメラが4Kだった程度で、YouTubeでも4Kのコンテンツはまだほとんどありませんでした。つまり、4K動画に関してはテレビの放送波ではなくネットを主体として伝わってくるトレンドの先取りによってユーザーに訴求していったような印象があります。

私は「写真のような画質で動画が撮れたらいいのに」という願望を持っていましたので、4K動画についてはとても楽しみにしていました。

4K動画対応デジカメを使ってみる

4K動画への期待の高まりを受けて2014年に発売されたのが、パナソニックの4K・30fps撮影対応の「GH4」でした。思えば、GH4は、噂サイトで話題が出始めた頃から情報を追って、販売店による予約受付開始とともに予約を入れ、発売日に入手した初めての機種だったと思います。同年5月には「4K動画を試してみる」を掲載しました。

4Kモニターはまだ持っていなかったため、4K撮影しても視聴はフルHDになりますが、オーバーサンプリング効果もあり、4K撮影ならではの精細感を楽しむことはできました。カメラの撮影動画の解像度が上がると、ビットレートもそのぶん増加し、ファイル容量が大きくなります。撮影から保存・編集に至るワークフローの負荷は増えますが、それを上回る魅力を感じ、以降の撮影はほぼすべて4Kで行うことになりました。2015年には、時期尚早ではないかと思いつつも作品の4K版の販売を開始しました(「4K解像度のダウンロード版を試験的に掲載開始しました」)。

初めて4Kで撮影した作品 「白塗りその13」より

4K・60fpsへ

2017年には後継機種として4K・60fps対応の「GH5」が登場し、GH5はその後2022年の初め頃まで長らくメインの動画カメラとして使用しました。GH2の使用以来、一部の作品を除いてずっとフレームレートは24fpsを採用していましたが、GH5以降は動きの滑らかな60fpsで撮影しています。

GH2のときに24fpsで撮っていた理由は、連載第3回で書いたようにGH2では24fpsモードがもっとも高精細だったからですが、GH4の場合は24fpsでも30fpsでも画質は変わりません。それでも引き続き24fpsを採用した理由は、もともと私にビデオ(テレビ)と比べて高画質な映画の世界への憧れがあったことに加えて、当時のデジタル一眼動画のノウハウを扱った個人ブログは自主映画制作者やエモいイメージ動画を撮る人によるものが多く、24fpsで撮るのが当然みたいな雰囲気があり、それに影響されていたせいもあります。サイトを作ったときのサイト名は「Route 207 Revisited」(日本語で言えば「国道207号線再訪」)でしたが、作品に著作権者としてクレジットするときに「Revisited」は奇妙だと思い、2012年頃から「Route 207 Films」を名乗りました。この「Films」は映画への憧れの名残です。とは言え、日頃テレビの映像に慣れ親しんで60fpsの滑らかさもよく知っていましたので、GH5で60fps撮影の素材を見て以降は、すぐに60fps採用に変わりました。

さらに、GH5には「4K・60fpsでも画角が狭くならない」・「4K・60fpsでも録画時間に制限がなくオーバーヒートしない」という長所があり、その後、これら2つの点を満たすデジタル一眼の機種はなかなか登場しませんでした。

4K 60fps撮影作品の一例 「ペイント体験その33 近接編」より

GHシリーズはオートフォーカスが弱点?

デジタル一眼動画が登場した初期は、ラージセンサーで動画が撮れるということだけでもインパクトがあり、動画でのオートフォーカス性能の優劣はそこまで問題視されませんでした。そもそもデジタル一眼レフの場合、光学式ファインダーを使った撮影が主役で、ライブビューモードでのオートフォーカス(AF)の速度や正確性はあまり重視されていなかったという経緯があります。

ところが、2010年代後半からデジカメ業界全体でミラーレスへの移行が進み、4K動画が普及していくと、「ラージセンサー+高画素動画」という組み合わせのため、従来の「スモールセンサー+低画素動画」の時代よりピンぼけが目立ちやすいという課題が顕在化していきます。各所のレビューやユーザーの評価のあいだで、パナソニックのミラーレスは他メーカーと比較してオートフォーカス性能が弱いと指摘されるようになっていきます。

パナソニック以外のメーカーがミラーレスにおいて採用したAFの方式は「像面位相差方式」と呼ばれるもので、パナソニックは「コントラスト方式」のみを採用して、像面位相差方式は使いませんでした。しかし、実際にリリースされている機種で比較する限り、像面位相差方式のほうがAFの正確性に長けていたようです。

たしかに、GH4を使っているとAFの挙動が不安定と感じる場面は多かった気がします。GH4使用の最初期には、部分的にマニュアルフォーカスを使うことすらありました。GH5ではそれがだいぶ改善されていましたが、それでも場面や構図によってはAFが安定せず、たとえば「泥んこ体験その24 連日編」や翌年の「泥んこ番外編 2019年6月」ではAFが迷うシーンが多々ありました。 しかし、この時期には以前に比べて干潟の作品撮影の機会は減っており、それ以外の室内撮影ではAFに不満を感じなかったため、その後も長く使い続けることになりました。

このように、あるカメラの弱点や短所が致命的かどうかは、撮影者がどのような環境で何を撮るか、その撮影者の撮影環境で弱点が顕著に表れるかどうかによって、大きく左右されます。

パナソニックDMC-GH4 基本情報

※4K動画対応機種では4K動画とフルHDで記録フォーマットが大きく異なるため、原則として4K動画記録時の仕様を掲載しています。

使用時期:2014~2017年
製品ジャンル:レンズ交換式ミラーレスカメラ
メーカー・機種名:パナソニック DMC-GH4
センサーサイズ・有効画素数:4/3型 約1600万画素
4K動画時の撮像範囲・信号読み出し方式:3840x2160ピクセルの範囲をクロップ
記録メディア:SDカード
4K動画ファイルコンテナ:MOV、MP4
4K動画圧縮形式:H.264 (フレーム間圧縮)
最大記録画素数:4096x2160
4K動画フレームレート:24P、30P
4K動画ビット深度・色信号:8bit 4:2:0
4K動画最大ビットレート:平均100Mbps
音声記録形式:リニアPCM、AAC

パナソニックDC-GH5 基本情報

使用時期:2017~2023年
製品ジャンル:レンズ交換式ミラーレスカメラ
メーカー・機種名:パナソニック DC-GH5
センサーサイズ・有効画素数:4/3型 約2000万画素
4K動画時の撮像範囲・信号読み出し方式:全幅・全画素
記録メディア:SDカード
4K動画ファイルコンテナ:MOV、MP4
4K動画圧縮形式:H.264 (フレーム間圧縮・フレーム内圧縮から選択可能)
最大記録画素数:4096x2160 (特殊なモードとして5.2K動画記録モードあり)
4K動画フレームレート:24P、30P、60P
4K動画ビット深度・色信号:10bit 4:2:2 ~ 8bit 4:2:0
4K動画ビットレート:平均400Mbps~100Mbps
音声記録形式:リニアPCM、AAC

SD時代から4Kまで、どれくらい高画質化したのか?

懐かしのVHSと4Kを比較してみる?

GH5を使っていて感じたのは、少なくとも私の用途においては、この画質でもう必要十分なのでは?ということでした。そこでふと気になったのは、SD時代の画質からどれくらい進歩したのだろう、ということです。

2019年に、「4KとVHSを比較してみる」を掲載して、VHSと4Kを比較したことがありました。以下はそのページに載せた動画です。1980年代、8ミリビデオとほぼ同じような画質で、VHSフォーマットで録画するビデオカメラも存在していましたが、今の4K動画をソースにしてダウンコンバートでVHSに録画しても、必ずしも、当時のVHSビデオカメラや8ミリビデオカメラの画質を再現できるわけではありません。実際には、1980年代の民生用アナログビデオカメラで撮影したものは、下記動画の右側の画質よりもさらにぼんやりしていたのではないかと思います。これは後述のオーバーサンプリング効果によって、最終的な記録解像度よりも高解像度のソースからダウンコンバートするほうが、最初から記録解像度と同じような画質のセンサーで撮影するよりも、高画質になるためです。

4KとSDの差がもっとも感じやすいのは引きの構図(クローズアップではなくより広い範囲を写す構図)で、3番目の比較動画がわかりやすいと思います。

顔のクローズアップについても、VHSのほうは刷毛の塗りムラなどメイクの微妙な凹凸をほぼ表現できていません。まだらな塗り、薄い塗りであってもそこそこ濃い均一な塗りに見えてしまう可能性があり、当時の番組シーンの付着は、カメラ性能の制約、SD画質の制約によって、だいぶ理想化されていた面があるかもしれません。

「白塗りその16」より
「ペイント体験その34 黒と金粉編」「泥んこ番外編 2019年6月」より
2019年・2018年の未公開クリップより

※泥んこ部分はありません。スタート前の遠景のシーンのみです。

それでもなお写真は遠い

民生用ハイビジョンビデオカメラ(フルHD画質のビデオカメラ)が登場したときには、ブラウン管テレビで見るぶんには標準画質の業務用ビデオカメラで撮ったもののほうが自然で綺麗だ、というような評価もユーザーのあいだで存在していましたが、4K動画以降は、それより低い解像度のカメラと比較して云々の議論はあまり見かけなくなった気がします。そういった点でも、4K動画は画質面ではっきりとブレークスルーだったと思います。

とは言え、4K動画であっても写真の記録画素数とはなお開きがあり、動画からのキャプチャが写真画質に達するには、6K動画、8K動画の登場を待つ必要がありました。そういった展開については次回取り上げたいと思います。

でも、4K動画って誰にとって必要なの?

ここまで私(制作者)の視点で4K動画のメリットを書いてきましたが、それが視聴者の皆様の需要に適うものかどうか、即ち4K制作それ自体が販売作品の売上を押し上げる効果があるかどうかは、かなり疑わしいと思います。同じ作品に4KとフルHDの選択肢があった場合、4Kのほうを選ぶという方は多くおられても、4K版が用意されていなければ作品を買わないという方は今でもごくごく少数でしょう。とりあえずフルHD(1080P)版が用意されていれば十分だという方が大多数だと思います。であるならば、フルHD制作でも十分だ、ということになります。

その点では4Kは制作者のこだわりや自己満足に過ぎないとも言えますが、後述のように、リリースがフルHDでも4K撮影しておく画質面のメリットは存在します。それに限らず、マスター素材をその時代におけるなるべく綺麗な画質で撮っておくことは長期的にみて必ずしも無駄なことではない、とも考えています。これに関しては長くなるため、いずれ機会があれば稿を改めて書きたいと思います。

4K動画がもたらしたもの?

放送波フォーマットとの決別、「統一規格」の終焉

デジタル一眼の4K対応は、民生用動画機材の歴史において、単なる高画質化にとどまらない、大きな画期でもあったと思います。

デジタル一眼登場以前の民生用ビデオカメラは、表示デバイスと動画の記録フォーマットのいずれに関してもテレビ放送波の仕様によって規定され、それは一種の制約のようなものとして民生用動画機材のスペックの幅を狭めている側面がありました。しかし、4K動画以降以降のデジカメ動画は、放送波のフォーマットという制約から自由になっていきます。

4K動画以前にも、デジイチ動画の先駆けとなったキヤノン5D Mark2はAVCHDを採用せず、よりパソコンで扱いやすいMOVコンテナに動画と音声を記録する形式を採用しました。AVCHDの制約を受けないことから、ビットレートもAVCHDの上限より大幅に高く設定されていました。連載第3回で取り上げたパナソニックGH2の改造ファームウェアでビットレートをAVCHD規格の上限よりも高く設定できる点が人気を集めたように、デジイチ動画の普及と並行して、熱心な動画ユーザーのあいだで、動画機材の高画質化を図る上でAVCHDはむしろ足かせだというイメージが広まっていったように思います。

そうした状況の中で、4K動画が登場します。AVCHD規格ではフルHDまでしか規定されていないため、4K動画の対応カメラはMOVやMP4などのより汎用的な動画コンテナを採用することになります。また、フルHD時代に存在していたインターレース記録や、アスペクト比4:3の1440x1080ピクセルで記録して表示の際にアスペクト比16:9に引き伸ばす方式は、なるべく電波の帯域を抑える必要のある放送波の制約に由来しますが、4K動画は完全にパソコンネイティブ・デジタルネイティブ時代のフォーマットであり、インターレース記録も非正方形ピクセルも当然採用しません。

4K動画への対応は、ビデオカメラにおいて8mm・DV・HDV・AVCHDと続いてきた、放送波フォーマットに強く影響されたいわゆる「統一規格」がはっきりと主役の座を降りたことを告げるものでした。

負の遺産扱いされるAVCHD

デジイチ動画においてMOVやMP4コンテナによる自由度の高い動画記録が主流になって以降も、ソニー・パナソニックはミラーレスカメラの主要機種にAVCHDモードでの記録を選択肢の一つとして地味に搭載し続けました。

当然、動画ユーザーの多くはわざわざAVCHDモードを選択することはありませんでしたが、2021年にYouTubeの「テレビ朝日映像編集部」チャンネルが「【動画撮影用】テレビカメラマンおすすめのα7Ⅲの初期設定」と題した動画を配信し、その中でソニーのミラーレスの人気機種「α7 III」で動画撮影するときにお勧めの設定として、AVCHD・インターレースを推していました。そのことが2023年になってSNSの動画ユーザーのあいだで話題になり、今さらパソコンとの親和性に欠けるAVCHD・インターレースをお勧めするのはいかがなものか、という観点からプチ炎上したという出来事があったそうです(ITmedia NEWS「2023年にもなって「AVCHD」が炎上? その複雑な背景とは」)

件の動画に出演していたプロのテレビカメラマンは、記録時間を長く確保できるという点で相対的に低ビットレートのAVCHD・インターレースモードを勧めています。メリット・デメリットを知り尽くしたプロのカメラマンが記録フォーマットを選んで、その後の編集も動画フォーマットのことをよく知っているプロが行うことを前提にすれば、必ずしも時代錯誤の主張がされているわけではありません。しかし、アマチュアの初心者がうっかりAVCHDのしかもインターレース記録を選んでしまうと、パソコンで編集・書き出しをするときに注意を要する点がいくつかあり、現在ではデメリットのほうが多いのも確かです。

AVCHD規格の登場から15年以上を経て、今では一般の動画ユーザーからは負の遺産扱いされているということに、隔世の感があります。ちなみに、α7 IIIの後継機「α7 IV」では、AVCHDの記録モードは廃止されました。

複雑化する動画スペック

4Kで撮ると画角が狭くなる?

デジカメが4K動画に対応し始めた頃から、デジカメの動画機能のスペックが複雑化していきました。記録解像度だけでなく、フレームレート、ビットレート、圧縮コーデックの種類にそれぞれ複数の選択肢が用意され、それらの組み合わせによっては動作上の制約が生じたりします。その具体的な一例が、「4K動画のときには画角が狭くなる機種が多い」という問題でした。

2014年に使い始めたパナソニックGH4は、4Kで動画を撮ると、写真モードのときより画角が狭くなる(写真のときより映る範囲が狭くなる)仕様でした。その後他のメーカーから登場した4K対応デジカメにもそうした機種が多く、2016年から「デジカメ・ビデオカメラの4K動画時の焦点距離をまとめてみる」というページを作成して随時更新していたことがあります。

4K動画で画角が狭くなる理由を詳しく書くと長くなりますが、ごく簡単に言えば、デジカメは写真用の高画素センサーを搭載しているが、その画素数をすべて活かして動画を生成するのは画像エンジンの性能的にハードルが高く、センサーの読み出し範囲を狭くして負荷軽減を図ったためです。

4K動画に必要な画素数は約829万画素(3840x2160)、フルHDでは207万画素(1920x1080)です。一方、写真の記録画素数としては、2010年代半ばの時点で1600万画素~2400万画素くらいが主流でした。本来は、センサーから1600~2400万画素の全部の画素情報を毎秒30~60フレーム読み出し、画像処理エンジンに受け渡してリサイズ処理を行い4K動画として記録するのが理想的です。しかし、フレームレートが上がるほど、そして1フレームあたりの処理画素数が増えるほど、画像処理エンジンの負荷が高くなり、より強力なハードウェア性能が必要となります。消費電力と発熱も増えてオーバーヒートしやすくなるため、より効率的な放熱の仕組みも必要です。

そのような画像エンジンの負荷を少しでも軽減させる方法の一つが、センサーの中央部から4K動画に必要な画素数のエリアだけを切り出して読み出すというものでした。写真モードのときはセンサー全域を使っていたのに、4K動画のときにはセンサーの一部のみを切り取るため、画角が狭くなるわけです。より詳しくは、「デジカメ・ビデオカメラの4K動画時の焦点距離をまとめてみる」をご覧ください。

その後、センサーの読み出し性能や画像処理エンジンの処理能力が進歩し、4K動画でも画角が狭まらない機種が増えていきました。それでも、たとえば4K・60fpsのときには30fpsのときよりも少し画角が狭くなるといった細かな制約がある機種は、今なお多数存在しています。画角の問題以外にも、いちばん高画質のモードで撮るとオーバーヒートしやすく連続撮影時間が短くなる、といった仕様もよく見かけます。ユーザーは、その記録モードを選んだときに、どのようなメリットとデメリットがあるのか?ということに注意する必要があります。

動画の仕様表、ぜんぶ理解できますか?

最近の動画機能に力を入れたデジカメには、動画圧縮コーデックにH.264とH.265だけでなく、より圧縮率が低いApple ProResやRAWを追加したものも登場しています。ビット深度も従来の8bitだけでなく10bitを選べたり、輝度信号・色差信号のサンプリング比が従来のYUV4:2:0だけでなくより間引きの少ない4:2:2を選べたり、色空間がSDRだけでなくHDRやLOG記録も選べたり、フレームレートに関して従来の24fps・30fps・60fpsに加えてスーパースロー用に120fpsや240fpsも選べたり……と、動画の記録フォーマットを規定する様々な項目に関して複数の選択肢が用意されるようになっています。

それに加えて、センサーからの信号の読み出し方式までユーザーが選択できる機種もあります。オーバーヒートしやすくて連続撮影時間は短くなるが画質が良い全画素読み出し方式を選ぶのか、それとも画質ではやや劣るが連続撮影時間は長くなる画素加算読み出し方式を選ぶのか、といったような具合です。

ご参考まで、たとえばDV規格においては、これらの要素はほぼすべて一択です。記録解像度は標準画質(720x480ピクセル)、ビット深度は8bit、クロマサンプリング比はYUV4:1:1、色空間はSDRのBT.601……といったことが規格で定められています。ユーザーの側に選択の余地はありません。

さて、以下は2022年発売のデジカメ、富士フイルムX-H2とパナソニックGH6の仕様表から、動画の記録モードの部分のスクリーンショットです。記録画素数・フレームレート・ビットレート・動画圧縮コーデックとその細かなオプションにそれぞれ複数の選択肢があり、それらの組み合わせが多数あることで、このような複雑な表になっています。この中から自分の撮影の目的に合致する最適な記録モードを即座に選べるユーザーはいるでしょうか? 少なくとも私にはその自信はありません。

頒布がフルHDでも4Kで撮ることにメリットがあるのかどうか問題

これまで、他の制作者さんから、販売作品がフルHDの場合でも、4Kで撮影するメリットはあるかどうかというご質問を受けたことが何度かありました。これは複雑化した動画スペックとも関係することですので、この項目の中に入れておきます。

結論から言えば、販売や公開がフルHDの場合でも、撮影を4Kでしておくほうが、ほとんどの場合において高画質になります。その理由は先述のセンサーからの読み出し方法と関係しています。一般に、最終的な記録画素数と同じ画素数のセンサーで撮影するよりも、記録画素数よりも高解像度のセンサーから全画素を読み出して画像エンジンでリサイズ処理をするほうが、高精細な画像を得られるとされています。これをオーバーサンプリング効果と言います。たとえば、200万画素の写真や動画を記録する場合、200万画素のセンサーよりも、「800万画素のセンサー、全画素読み出し、画像エンジンでのリサイズ処理」のほうが高画質が得られます。

ただしここで重要となるが、「全画素読み出し」と「画像エンジンでのリサイズ処理」の部分です。一方、デジカメのセンサーには、画素加算・画素混合やラインスキップと呼ばれる、動画撮影時にセンサー読み出し画素数を低減して画像エンジンの負荷を軽くする機能があります。たとえば、800万画素のセンサーで4画素を加算して1画素として読み出し、全体で200万画素を読み出して画像エンジンに受け渡します。このセンサーでの画素加算・画素混合のプロセスは、画像エンジンでのリサイズ処理とはまったく別物です。800万画素のセンサーでも、4画素加算をした場合、200万画素相当の解像度のセンサーになります。

4K動画対応のカメラでは、フルHDのときに画素加算などの読み出しを採用して画像エンジンの負荷を軽減していることがほとんどで、全画素読み出しをして画像エンジンでフルHD動画を生成している機種はほとんどありません。4Kは30fpsまでだがフルHDだと60fpsで撮れるカメラ、フルHDのほうが4Kよりもオーバーヒートしにくいカメラは、ほぼ例外なくフルHDのときに画素加算などの負荷軽減をしています。こうした事情から、4K対応のほとんどのカメラにおいて、最初からフルHDで撮影するよりも、4Kで撮影して編集時にフルHDにリサイズするほうが、オーバーサンプリング効果により高精細な映像を得られます。4K対応のデジカメで、フルHDモードで撮影して画質が今ひとつパリッとしないと感じたならば、一度、4K撮影してみることをお勧めします。

ただし、4Kだと30fpsまでだがフルHDだと60fpsも撮れるという場合に、動きの滑らかさを優先するのであれば、フルHD・60fpsを選ぶほうが目的に適うことになります。

では、頒布が4Kのときに6Kや8Kで撮ることにメリットがあるのか?

さらにややこしいのが、上記のような4K収録・フルHD公開のメリットが、6K・8Kと4Kの関係には必ずしも当てはまらないということです。

動画に力を入れた最近のカメラは、6Kや8Kなどより高解像度の動画に対応していたり、6K・8K記録には対応していなくても、6K・8Kの高画素センサーから全画素読み出しをしてオーバーサンプリングで4K出力することを謳っている機種が増えています。

これらの、「センサーからの全画素読み出し・画像エンジンでの4Kへのリサイズ」をはっきりと打ち出しているカメラの場合は、6K・8Kで撮って編集で4K出力した場合の画質と、最初から4Kで撮影した場合の画質は、ほぼ違わないものと思われます。見分けるポイントは、製品サイトの動画機能の特長説明に、「オーバーサンプリング」や「全画素読み出し」などのキーワードがあるかどうか、でしょうか。ただし、オーバーサンプリングによる4K記録を押し出している機種でも、フルHDモードに関しては一部の例外的な機種を除き画素加算読み出しをします。

正確性を期すと大変ややこしいですが、現状では、「ほとんどのカメラにおいて、販売・公開がフルHDでも4K撮影して編集でフルHDにするほうが綺麗」と言って差し支えないと思います。そして、6K・8Kデジカメの場合、最初から4Kで撮っても、6K・8Kで撮って編集時に4Kにしても、あまり変わらない場合がある、ということになります。

次回は…

デジタル一眼の動画機能は、4K動画の採用以降も、6K・8KやHDRなど様々な高画質化が図られていきます。第5回は過去の振り返りだけでなく、おそらくデジタル一眼動画の現状をまとめるような内容になると思います。動画の高画素化・高画質化が進むことで、あるいは写真の連写機能が強化されていくことで、写真と動画はいずれ融合していくのでしょうか?その展望についても検討してみたいと思います。

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