Top > Works > 4KとVHSを比較してみる (2019年12月21日掲載)
ふと、最近普及してきた4K動画と昔のVHSの映像を比較するとどれくらい違って見えるのだろうと思い、比較してみました。
同じ映像ソースのほうが両者の比較をしやすいため、4Kでの撮影クリップをいったん実際にVHSのビデオデッキで録画し、それを再度PCに取り込むことで、4KとVHSの動画を比較しました。VHSって何…?という方は末尾の説明をご参照ください。
特に新規の動画はありませんので、技術的に関心がありましたらどうぞ。
4KモニターにVHSを映し出した場合を仮定して、キャプチャしたVHSソーズの動画を4Kサイズにリサイズしてオリジナルの4K版と左右で結合しています。パソコンなど大きい画面で、Vimeoの画質を「1080p」以上に指定した上で全画面再生をお勧めします。
※泥んこ部分はありません。スタート前の遠景のシーンのみです。
画像の縦棒を左右にスライドすると、4K・VHSを比較できます。
顔のクローズアップです。4Kでは刷毛の跡や白粉の細かな凹凸がわかりますが、VHSではそれらがすべて飛んで均質になっています。これはこれでマットに見える利点があるのかもしれません。
座った姿勢での全身です。こちらもVHSでは肌の細かな質感がすべて飛んでいます。
ロングショットは情報量の違いがより顕著に出ます。4Kでは人の表情や衣装の柄、ゼッケンの文字まで読み取れますが、VHSではそれらがぼやけています。
今回ついでにVHSの高画質版の規格にあたるS-VHSでもS端子経由で録画して、ノーマルVHS・コンポジット入出力での録画との比較もしてみました(上記で4Kと比較しているのはノーマルVHS・コンポジット入出力での録画です)。
フルHDに慣れて4K動画も増えつつある現在では、S-VHSとVHSの違いは僅かとも言えますが、個人的には相応の差があるという印象を受けました。S-VHSのほうがだいぶ精細で綺麗に見えますが、いかがでしょうか。とは言え、4Kサイズに拡大してネイティブ4K素材と比較するのはやはり厳しいと思います。
規格上、VHSの水平解像度は240TV本、S-VHSは400TV本とされていて、輝度信号のみとはいえ水平方向で6割増しもの精細化が図られており、じゅうぶんに規格の上限を上回る解像度のソースを用意すれば、それらの数字に相当する違いはありそうです。
さすがにVHSについては説明不要…と思いたいところですが、特に若い世代の方だともしかしたらまったく馴染みのない方もおられるかもしれません。20代以上の方であれば、濃淡はあるかと思いますが、うっすら~がっつり、ご存じかと思います。
VHSは、1970年代後半に登場して2000年代前半くらいまで一般家庭で最も広く使われたビデオ録画機器及びビデオカセットの規格で、テレビ番組の録画視聴や、映画・ドラマなどのビデオソフトの販売メディアとして使われました。DVDやBlu-rayなどディスクと違ってVHSはビデオテープをカセットに収めたメディアでした。パイ投げなどの専門作品も、最初はVHSで販売されていました。詳しくはWikipedia「VHS」などもご参照ください。
2000年代に入ると徐々にDVDが主流となり、2010年代半ばにはVHSのビデオデッキの生産は終了しました。今のところまだ機器は中古で容易に入手できますし、テープは新品が流通していますが、今後は入手が難しくなっていくと思います。
VHSに記録されているのはデジタルではなくアナログの映像信号ですので、デジタル動画のようにピクセル数・ビットレート・色深度等の数値で情報量を示すことはできません。それでも、VHSの水平解像度240TV本・インターレース・有効走査線数約480本という仕様を敢えてデジタル的な画素数に置き換えて表現するならば、(詳細な説明は省きますが)320x320ピクセル程度相当ということになるでしょうか。標準画質のデジタル映像信号規格480i(720x480ピクセル・インターレース)の限界に達するほどの情報量はありません。
また、VHSデッキへの映像の入出力はアナログで行われますので、民生機器の限界もあってその経路でも信号の劣化があります。そのためVHS化は、パソコンのエンコードソフトで4Kを直接320x320ピクセルに変換する以上に劣化要因が加わります。
VHSに限らず、アナログテレビ放送などSD画質・インターレースの映像は、もともとブラウン管テレビでの表示を前提に規格が決められています。実際、VHSの映像は25インチくらいまでのSD画質のブラウン管テレビで見るのが自然でいちばん綺麗に見えます。そのため、今回のように4K液晶テレビでの表示を仮定してVHSの映像をデジタル化し拡大・比較するのは、VHS本来の良さを見るという点では必ずしも適切な手法ではありません。
しかし、仮にVHSのビデオデッキをブラウン管テレビに繋いで映像を再生し、画面を凝視したとしても、今回の方法に比べて映像から読み取れるディテールや情報量が増えるわけではなく、あくまで液晶テレビに表示させた場合より「自然」に見えるだけです。今回の方法により、映像から読み取れる情報量の限界を比較することは可能だと思います。
また、VHSが主役で活躍していた時代は、ノイズやゴーストのある地上アナログ放送、今ほど高画質ではないアナログ記録方式の家庭用ビデオカメラなど、ソースとなる映像の品質にも大きな制約がありました。そのため、今回のようにソースにデジタル撮影素材からのダウンコンバートを用いる方法では、たとえば「1980年代半ばに個人で撮影をしてVHSに保存したときの質感」はおそらく再現できていないと思います。
できれば、撮影段階から4Kカメラだけでなくアナログの8ミリビデオなどを同時に使ってそれをVHS側のマスターにすることで、よりトータルな形で撮影機器・保存メディアの時代的な違いに即した比較をしてみたかったのですが、今回の方法の比較ですら誰得な感がありますし、さすがにそこまでは手が回りませんでした。
映像を楽しむ際に、画質は一定程度以上、良好であるのに越したことはないと思いますが、これだけあれば十分という線引きやどれくらいなら臨場感を持って楽しめるかは人により様々です。
私自身は、多少古い映像であっても、その時代のテレビ放送・一般家庭での録画ならこういうものだと思えば画質的な部分はあまり気になりませんが、それがモノクロ(白黒)時代の映像となると、さすがに想像力で補うには限界があり、臨場感を再構成することができません。
現在の映像に関しては、私が自分で撮影するものに関してはなるべく高画質なオプションで残したいと思いますが、見るほうでは、Blu-rayがない映画のDVDを買うこともありますし、配信でも720Pが用意されていればじゅうぶんです。それ以上の選択肢が用意されていればそれを選ぶと思いますが、フルHDがないから買わない、といったことはありません。ただ、最近の映像に慣れるにつれて、VHSなどの古い映像に対して、それをリアルタイムで見ていたときほど臨場感を感じ取りにくくなってきたのも確かです。
とりあえず内容は脇に置いて、画質的な部分だけで言えば、個人的にはクローズアップ主体であれば古い時代のVHSの映像でもまだ楽しめそうだと再認識しましたが、皆様はいかがでしょうか。尤も、映像の質以外に、映っているのが昔の芸能人だとどんな内容であれ興味が湧かないという方もおられたので、どこまでも映像の中身と不可分かもしれません。
ついでながら最後に、以前にもこうした呼びかけをしましたが(「未紹介シーン・未発掘シーンをお持ちの方へ… 」参照)、今後、VHSの再生環境は入手しにくくなっていくと思われます。私も今稼働しているVHSデッキが動かなくなったら、改めて中古で買い直すかどうかはわかりません。テレビ番組の未発掘シーンをVHSやベータマックスなどのアナログメディアでお持ちの方は、こちらの趣旨をご覧いただいた上で、是非ご一報ください。