Top > Works > 動画撮影カメラを振り返る 第3回 (2023年12月23日掲載)

動画撮影カメラを振り返る 第3回 デジタル一眼動画の登場

これまで使ってきた動画撮影カメラとその背景を振り返る連載記事の第3回です。この連載の趣旨は第1回の冒頭をご参照ください。

第3回は、私がデジタル一眼カメラの動画機能を使い始めた2011~2014年頃を取り上げます。この時期の大きな特徴は、なによりも高品質の動画撮影機材の選択肢としてデジタル一眼カメラが普及し始めたことです。それまでは民生用分野でなるべく高画質に動画撮影しようと思うとビデオカメラ一択でしたので、これはとても大きな変化です。それによって、ラージセンサーでレンズ交換可能な動画機材がアマチュアの手の届くものになり、従来の民生用ビデオカメラにはなかった新たな要素を実用的にも趣味的にも楽しめるようになりました。動画ユーザーの多くが、より高画質な動画や趣味性の高さを求めて、デジタル一眼カメラを検討するようになっていきます。

今回文中で紹介の動画は、いずれも掲載済みのものです。

デジカメ動画を使ってみる 2011~2014年

キヤノン5D Mark IIの衝撃

私がビデオカメラから動画対応デジカメに本格的に乗り換えたのは2011年でしたが、その選択のきっかけとなるニュースを目にしたのは2008年に遡ります。第3回のテーマの核心に関係することですので、少し詳しく書きたいと思います。

この年の秋、動画撮影機能に対応したジタル一眼レフカメラが相次いで発売されます。9月、ニコンD90がデジタル一眼レフカメラとして世界で初めて動画撮影に対応、11月発売のキヤノンEOS 5D Mark2がそれに続きます。D90はフルHDではなく720P記録であったせいか、さほど注目されなかったようですが、特に大きな話題となったのが、5D Mark2のフルHD動画撮影機能でした。それまで私は写真機としてのデジタル一眼カメラに関してはほとんど関心を持っておらず、最初にニュース記事として視野に入ってきたのは5D Mark2のほうだったように記憶しています。実はD90のほうが世界初だと知ったのはずっと後のことでした。

5D Mark2・D90の発売後、メーカーのプロモーション動画や購入したユーザーが発信し始めた動画を見て、多くの動画撮影ユーザーが衝撃を受けました。ビデオカメラやコンデジで主流の小型センサーとは比較にならない大きなフルサイズやAPS-Cサイズのセンサーで撮影された動画は、35ミリフィルム映画のように背景のボケ方が大きく、単なる画質の違いだけにとどまらない、従来のビデオカメラにはできない表現が可能でした。また、ダイナミックレンジが広く、暗所でも撮影に強いという利点がありました。憧れでありながらけっして手に届かなかった、35ミリフィルム映画に似た質感の映像を、アマチュアの個人が撮れるようになったのです。

アマチュアだけでなく、プロの映像制作業界にも大きな影響がありました。5D Mark IIは、35ミリフィルムのシネマカメラよりも桁がいくつも違うほどに安価で、「映画っぽい絵」の敷居と制作コストを大幅に下げる可能性があることは一目瞭然でした。5D Mark IIの登場以降、低予算の商業映画・映像制作の分野でも、デジタル一眼レフやミラーレスカメラが使われるようになっていきます。5D Mark2とD90に始まるいわゆる「デジイチ動画」の発展は映像制作全般にとても大きな影響を与えました。2009年頃から2010年代前半には、デジタル一眼レフで撮ったと思われる、とにかく背景をぼかしたミュージックビデオやプロモーションビデオをよく目にしたものです。

ただし、動画撮影の際には、一眼レフカメラのアイデンティティとも言えるミラーと光学式ビューファインダーはまったく使われません。デジタル一眼レフが動画機能への傾倒を強めていくことで、一眼レフがカメラの主役の座を降りる準備段階の役割を果たしていたかもしれません。

キヤノンEOS 5D Mark IIで撮影された動画の一例

今でこそこのようなデジタル一眼動画は珍しくないですが、当時は100万円しない機材で映画っぽい雰囲気の動画が撮れることは衝撃的でした。

デジタル一眼レフはなかなか動画撮影に対応しなかった

カメラに関心のない方だと、デジカメはもっと早くから動画機能に対応していたのでは?と疑問に思われる方も多いと思いますので、少し補足しておきます。

デジカメの動画対応は、レンズ交換式のデジタル一眼レフカメラと、レンズとボディが一体のコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)とで大きな違いがありました。コンデジは登場後わりと早くから動画撮影に対応しました。2000年代初頭の売れ筋のコンデジはほぼ動画撮影に対応していたのではないかと思います。ただしセンサーサイズはビデオカメラと大差なく、動画の画質に関してはビデオカメラのほうが進んでいました。

一方、センサーサイズが大きいデジタル一眼レフは、当初は動画撮影に対応していませんでした。初期のデジタル一眼レフは文字通りフィルム部分をイメージセンサーに置き換えただけで、画角(写る範囲)の確認は光学式ビューファインダーによって行います。背面の液晶は撮影した写真を確認するためにあり、コンデジのように画角をライブビューで確認する用途には使えませんでした。

デジカメの背面液晶のライブビューは、センサーで受けた信号を常時動画にしてリアルタイム表示しているようなもので、動画撮影との親和性が高い機能です。しかし、デジタル一眼レフ独自の強みは光学式ビューファインダーによる画角確認にあるため、ライブビュー機能への対応は後回しにされていました。デジタル一眼レフが初めてライブビューに対応したのは、2006年のオリンパスE-330だそうです(デジカメWatch「【特別企画】各社の最新ライブビュー機能を検証する」)。

こうした経緯から、デジタル一眼レフカメラの動画撮影対応が大きなニュースとなりうるわけです。

ミラーレスカメラと1型センサーコンデジの登場

デジタル一眼レフが動画撮影に対応し始めたのとほぼ同じ頃、ミラーレス一眼カメラが登場します。ミラーレスは、その呼称が示すように、一眼レフの構造上の特徴であるミラーと光学式ファインダーを廃し、電子式ビューファインダー(EVF)を採用します。簡単に言えば、ミラーレスは「コンデジのセンサーを大きくしてレンズ交換できるようにしたもの」でした。ミラーの廃止によってボディの厚みを抑えて小型軽量化することが可能になり、ライブビュー機能を前提とすることから、動画撮影との親和性が高くなります。ミラーレスカメラの中には、パナソニックのGHシリーズのように、写真よりも動画機能でユーザーに訴求する機種も登場しました。

さらに、ミラーレスカメラの登場の少し後、1型サイズ(13.2 x 8.8mm程度)のセンサーを採用した高級コンデジも流行します。1型というサイズは、レンズ交換型のカメラのセンサーよりやや小さいものの、従来のコンデジが採用していた1/2~1/3型前後のセンサーに比べるとはるかに大きく、且つ、カメラボディの大きさをコンパクトに抑えることができる、絶妙なバランスでした。1型センサーのコンデジも当然のように動画撮影に対応します。

5D Mark2やミラーレスカメラ、1型センサーのコンデジの登場以後、高画質・高品質の動画を目的としてデジカメを買うユーザーが出現します。以下、デジタル一眼レフとミラーレスをまとめて、「デジタル一眼カメラ」と表記します。

ミラーレスカメラを使ってみる

こうした中で、私の機材選びも、デジタル一眼レフやミラーレスカメラの動画対応に大きく影響を受けることになります。5D Mark IIの登場以降、次にビデオカメラを買い換えるなら動画対応のデジタル一眼カメラも検討対象にしたいと考えていたところ、2010年5月にキヤノンのデジタル一眼レフカメラEOS Kiss X4、2011年3月にパナソニックのミラーレスカメラDMC-GH2の購入へと至ります。5D Mark IIはデジタル一眼レフの中でも高価な上級機ですぐに飛びつけるような機種ではなかったですが、X4とGH2は比較的安価で、特にGH2に関しては各所のレビューで動画機能の評価が良かった機種でした。

X4の動画機能を使ったのは試験的に数回程度で、結局は主に写真機として使いました。オーバーヒートに弱かったことが原因ですが、その点に関しては後述します。

本格的にメインの動画カメラとして使うことになったのは、2011年のGH2でした。GH2はAVCHDフォーマットでフルHD動画を記録しますが、AVCHDのビデオカメラよりも画質がシャープな印象です。HDVからAVCHDのビデオカメラに買い換えたときにはほとんど画質の向上を感じませんでしたが、GH2に関してはわりとはっきりと違いを感知できました。記録フォーマットが同じでもセンサーやレンズが変わると別物になるということがよくわかりました。

GH2は60i・30P・24Pの3種類のフレームレートに対応していましたが、なぜか24Pが明らかにシャープで、60i・30Pはそれに比べるとソフト、という評判でした。後の4K対応デジカメでは、フレームレートや記録画素数によってセンサーからの信号の読み出し方式が変わる機種が増え、フレームレートによって画質が違う機種が多々あります。もしかしたら、GH2は24Pとそれ以外とでセンサーからの信号読み出し方式が違っていたのかもしれません。私は解像感が高い画質が好みだったため、24Pを採用しました。24Pのデメリットとしては、60iに比べて素早く動く被写体を撮ったときにやや滑らかさに欠けます。

GH2で「泥んこ体験」を撮り始めると、作品をご覧になった方から、動画の画質が良くなりましたねというご感想をいただきました。SD→フルHDの場合と違って、フルHDのビデオカメラ→デジタル一眼カメラの場合には記録解像度に変化があるわけではありません。それでも画質についてご指摘をいただいたということは、多くの方に比較的わかりやすい違いだったのだろうと思います。

冷静に考えると、2010年台初頭の時点でデジタル一眼カメラの動画に乗り換えたところで、売上本数を増やすような影響はほとんどありません。当時はそれほどデジカメ動画の実状に詳しくはなく、興味を持ったきっかけは「どうやらそっちのほうが綺麗に撮れるらしい」という程度の、かなりイメージ先行の期待と好奇心によるものでした。

実際に使い始めてみると、ビデオカメラよりもデジタル一眼カメラのほうが道具として使うのが楽しく、実用性以外の部分でも魅力がありました。ただ、この頃はデジタル一眼カメラ全体として見ると、中級機以上であってもまだまだ動画用としては向かない機種のほうが多かったと思います。GH2の動画の使いやすさは当時としてはむしろ例外的でした。2014年に「撮影機材ガイド 動画・基本編」「撮影機材ガイド デジタル一眼動画の基本情報編」というページを掲載し、それらの中でビデオカメラとデジタル一眼動画を比較した上でそれぞれの利点を書いています。それらを見ると、デジタル一眼カメラを総体として強く推せるほどではないにせよ、有力な選択肢として浮上してきているという当時の状況を、なんとなく感じていただけるかと思います。

「白塗りその4」より。キヤノンEOS Kiss X4で撮影。デジタル一眼の初使用作品です。
「泥んこ体験その14 三種編」より。全編、GH2で撮影。

掲載はこの作品が早かったですが、泥んこでのGH2の使用は「泥んこ体験その15 蒼々編」が最初です。

キヤノンEOS Kiss X4 基本情報

使用時期:2010年
製品ジャンル:レンズ交換式デジタル一眼レフカメラ
メーカー・機種名:キヤノン EOS Kiss X4
センサーサイズ・有効画素数:APC-S 1800万画素
動画時の撮像範囲:全幅
動画時の信号読み出し方式:(未調査)
記録メディア:SDカード
ファイルコンテナ:MOV
動画圧縮形式:H.264 (フレーム間圧縮)
最大記録画素数:1920x1080
フレームレート:24P、30P
ビット深度・色信号:8bit 4:2:0
動画ビットレート:平均44Mbps
音声記録形式:リニアPCM

パナソニックDMC-GH2 基本情報

使用時期:2011~2014年
製品ジャンル:レンズ交換式ミラーレスカメラ
メーカー・機種名:パナソニック DMC-GH2
センサーサイズ・有効画素数:4/3型 1600万画素
動画時の撮像範囲:全幅
動画時の信号読み出し方式:画素混合
記録メディア:SDカード
ファイルコンテナ:MPEG-2 TS (AVCHD規格)
動画圧縮形式:H.264 (フレーム間圧縮)
最大記録画素数:1920x1080
フレームレート:24P、30P、60i
ビット深度・色信号:8bit 4:2:0
動画ビットレート:平均24Mbps
音声記録形式:リニアPCM、ドルビーデジタル

GH2の背面側

デジタル一眼動画によって何が変わったのか?

デジタル一眼カメラの趣味性の高さ

2010年代初期のデジタル一眼動画は、ラージセンサーの特性から画質の面でビデオカメラを上回るところも確かにありましたが、記録解像度の点ではビデオカメラと同じくフルHDです。当時の熱心なユーザーのレビューの中には色の再現性の点では3板式のビデオカメラのほうが有利だという指摘もあったり、また、オートフォーカスの挙動や連続撮影時間に関してはビデオカメラに一日の長があり、後述のように熱耐性や長時間撮影への対応にも課題がありました。少なくとも2011~12年頃はユーザーの間でも家電店でもまだ「本格的な動画撮影機材を選ぶならデジタル一眼動画一択」というような雰囲気では全然なかったと思います。それではなぜ、多くの動画撮影ユーザーがデジタル一眼カメラへとなびいていったのでしょうか?

私がデジタル一眼動画を使い始めてから、この点ははっきりとビデオカメラを上回っていると感じたのは、実用性よりも、趣味性の高さ、別の言い方をすると使ったときの楽しさでした。ある趣味にどれくらい熱中できるかを左右する要素の一つに、「アウトプットを得るための手段や道具にどれくらい選択・カスタマイズ・工夫の余地があるか」という指標があります。その余地が大きいほど趣味性が高く、熱中する人を生み出しやすいというわけです。これは、なるべく簡単且つ均一的に高品質のアウトプットが得られればOKというような、純粋な実用性とはまったく別の指標です。この観点においては、レンズ交換が可能なデジタル一眼動画のほうが明確にカスタマイズ性が高く、ラージセンサーという点で映像表現の幅が潜在的に広く、民生用ビデオカメラと大きな差がありました。趣味性の高さは、機材を使うことそれ自体の楽しさも生み出します。

上記の点に関しては、2014年に「撮影機材ガイド デジタル一眼動画の基本情報編」の中でも書いていました。さらに言えば、従来の写真と動画の趣味人口の違いにおいても同じ要因があったと思います。

え、なんで発売前の機種の噂が出回っているの???

デジタル一眼動画を使い始めて、ネットでデジカメ関係の情報収集をするようになってからカルチャーショックを受けたのは、デジカメの世界には、有志の業界情報通ユーザーによって運営される、発売前のデジカメに関する様々な噂(うわさ)を発信するブログがいくつもあったことです。それらのブログでは、メーカー関係者・テスターとなるプロカメラマン・流通販売関係者などが情報源と思われる、発売が近い機種の確定スペックのリークから、まだスペックが完全には定まっていないという開発中の機種の情報まで、信頼度に関して玉石混交の「噂」が飛び交い、ブログの読者がそれに関してああでもないこうでもないとコメント欄で議論を交わしていました。ビデオカメラを探していた頃は、公式発表済みの機種に関して、「AV Watch」の記事、価格コムのクチコミ掲示板、家電店の店頭を参考にしていましたが、未発表の機種が関心の範疇に入ってくることはありません。ビデオカメラという製品ジャンルでは噂サイトに相当するようなものはなかったように思います。

このような噂サイトが成立するということに、デジカメの趣味人口の層の厚さを実感しました。デジタル一眼動画の普及とともに、噂サイトにおいて動画機能に関する話題も増えていきます。いつしか噂サイトのチェックは習慣化し、「噂」を楽しむようになりました。

え、そんなことまで気にするの???

また、デジタル一眼動画の撮影ノウハウを発信するブログなどを通じて、動画撮影時のセンサーからの信号読み出し方式や、同じH.264圧縮でもカメラの機種によって圧縮パラメータが違っていてそれが画質に影響している、などの非常にマニアックなユーザー間での議論を目にする機会が増えました。「え、そんな細かいことまでユーザーが気にする必要があるの?」というのが最初の印象でしたが、しばらくそのような情報に接しているうちに、自分自身もまたそれに感化されてしまって「噂サイトに出ている次の○○という機種はどの読み出し方式を採用しているのだろう?」などと考えるようになっていることに気づきます。こういった、デジタル一眼動画においてはユーザーの議論が良くも悪くも微に入り細を穿つようなところがあり、これもまたビデオカメラと異なるところだったと思います。

メーカーのほうもユーザーのそうした姿勢を受けて、「この機種は全画素読み出しを採用!」などと喧伝するようになり、売り文句も仕様表も複雑化していくわけですが、動画スペックの複雑化の問題については第4回で取り上げたいと思います。

ファームウェアの改造!

他に、デジタル一眼動画の趣味性の高さを感じた出来事の一つとして、GH2の改造ファームウェアの存在がありました。

ビデオカメラやデジカメの機能が増えて動作が複雑化するのに伴い、ファームウェアと呼ばれるカメラの制御ソフトウェアの重要性が高まっていきます。カメラの発売後、ファームウェアのアップデートで不具合の修正や機能の追加が図られるようになりました。iPhoneやAndroidでときどきOSのアップデートがありますが、それと似たようなものです。

アップデートの中身は、ソフトウェアに起因する不具合の解消から、オートフォーカスの挙動の改善、あるいはハードウェアの変更を必要としない範囲で実現可能な新たな機能の追加に至るまで、様々な種類があります。

GH2のユニークなところは、熱心な一部のユーザーによってファームウェアが解析され、パラメータの数値設定を変更したファームウェアが非公式にリリースされたことです。

さすがに性能を根本的に変えるような改造はできませんが、数値による設定項目、代表的なものとしてはビットレートの最大値を変更した改造ファームウェアがいろいろと出回りました。GH2はAVCHDフォーマットで記録するため、最高ビットレートは平均24Mbpsなのですが、それを50Mbps近くまで引き上げたファームウェアが画質の向上と安定動作の両立で人気があった他、自分で数値を設定して独自のファームウェアを出力するツールまで登場しました。このようなものを開発するユーザーの熱心さに感心し、ビデオカメラにはない動画デジカメの世界の趣味性の高さを実感しました。

さらに驚いたのは、メーカーはこの改造ファームウェアの存在を認識しながら、それを完全に締め出すようなアップデートは行いませんでした。多くの動画ユーザーがAVCHDによる制約を不要と思っていることがメーカーにも伝わったのか、後継機種ではAVCHD以外に大幅にビットレートを高めた記録モードが公式に追加されました。

他に、キヤノンのデジタル一眼レフEOSシリーズも熱心な動画ユーザーが多く、改造ファームウェアが出回っていたようです。

撮る内容への影響

私がデジタル一眼カメラを使うようになって、一時的ではありましたが、撮る内容にも影響がありました。2012年に掲載した「まみれ計画」「どろどろ」などのストーリー要素のあるショートフィルム作品がそれに該当します。デジタル一眼カメラの使いこなしのノウハウをネットで探していると、作例として自主映画や映像美にこだわった動画を多く目にするようになりました。手元に同じような道具があるのだから、自分もそういう雰囲気のものを作ってみたくなる、というわけです。それらの作品は完全にそうした影響を受けたもので、ビデオカメラを使っていた時代にはまったく考えていなかったものでした。

シナリオを書いて、カット割りをして、構図を細かく気にしながら撮影する、というのは普段の記録映像的な撮り方とは全然違った楽しさがありますが、準備から実現までのハードルが高いのも確かです。機会があればまた挑戦してみたい気持ちはあります。

デジタル一眼動画の弱点?

画質は良いけれど…

たいてい新しい種類の道具にはトレードオフで欠点も付きものですが、デジタル一眼動画も例外ではありません。たとえば、ビデオカメラでは音声の録音のことも考慮してレンズのズームやフォーカス、絞りなど各種の動作音がなるべく発生しないように設計されていますが、初期のデジタル一眼動画の場合はボディ・レンズとも動画での使用を前提にしたものが少なく、特にレンズの動作音をカメラ自身が拾いやすいという欠点がありました。オートフォーカスの挙動もビデオカメラに比べて追従性に劣る機種が多かったようです。

最近でこそ、デジカメの中級機以上の機種は動画での使用をかなり考慮した設計になっている場合が多く、オートフォーカスについてもビデオカメラ以上に高度化していますが、それでも、以下に挙げるオーバーヒートと長時間の連続撮影については、一部の機種を除いて、デジタル一眼カメラ全体でみると必ずしも完全に解消されているとは言えません。

デジタル一眼はオーバーヒートに要注意

GH2以前にも、2010年にキヤノンEOS Kiss X4を買って何度か動画撮影を試してみました。しかし、8月の炎天下の干潟撮影でX4を使ったときにオーバーヒートが起きて録画停止したことと、当時は干潟撮影がわりと活動のメインだったことから、常時使用には至らなかったという経緯があります。デジタル一眼の動画機能が熱に弱いことは5D Mark IIのレビュー記事から知っていたため、X4が熱停止したことは意外ではありませんでした。もともとビデオカメラ併用の心積もりだったため、撮影は継続できました。

一方、GH2は夏の屋外でも一度も熱停止することがなく、その後もGHシリーズを使い続ける大きな理由になりました。現在の売れ筋機種の中にも、オーバーヒートに弱い機種はいくつもあり、動画用として使用する場合は今なお注意を要する問題です。

「泥んこ体験その12 猛暑編」より。キヤノンX4で撮影したシーンも含まれています。

デジカメ動画は長時間撮影が苦手?

デジカメを動画撮影カメラとして使う際に注意を要するのが、長時間の連続撮影への対応です。ビデオカメラは長回しが得意で、じゅうぶんな容量のSDカードと大容量バッテリーを用意すれば、三脚に固定してイベントをまるごと連続撮影するという用途を難なくこなせます。デジカメは必ずしもそうではありません。デジカメ特有の、長時間撮影に関するいくつかの壁が存在しています。

29分59秒の壁

まず、デジカメは連続撮影が29分59秒で強制的にストップするものがあります。これはカメラのハードウェア的な制約によるものではなく、EU圏に輸出する際の関税という、完全に外的な要因です。EU圏では、記録解像度800x600以上・フレームレート23fps以上・連続撮影時間30分以上の3条件を全部満たす動画機能を持つカメラはそうでないものより関税が高くなるそうですが、3つの中で非対応にしても動画対応の商品としての魅力が比較的落ちないものとして、連続撮影時間の制限が選ばれているそうです(AV Watch「どうなる? デジカメ動画の“30分制限”。「日EU・EPA」の影響」)。デジカメでも30分以上の連続撮影に対応するものはあり、この点はメーカーの戦略や選択によります。

オーバーヒートの壁

先ほども書いたように、ラージセンサーカメラはオーバヒートが起きやすいようで、ボディ内が一定温度に達した場合に自動的に録画を停止するものが多くなっています。オーバーヒートへの耐性は機種により全然異なっていて、事実上、動画撮影には向かないほどに熱に弱い機種もあれば、逆に、オーバーヒートを起こしにくいことを売りにしたデジカメもあります。中には、カードの容量とバッテリが保つ限りは熱で停まったりしないことを謳っている機種もあります。

センサーからの信号読み出し方式やフレームレートによっても熱問題の起きやすさが変わり、使用条件や使用環境によっても変わるため、オーバーヒートの壁はいちばんややこしいと思います。

商品戦略の壁

実はハードウェア的には何の問題もないのに、上位機種との差別化のために連続撮影時間が意図的に短く設定されているのではないかと噂されている機種があります。この場合、カタログにその理由が明記されることはないので、ユーザーは状況証拠から推測するしかありません。

バッテリーの壁

長時間の連続撮影で問題になるのが、バッテリーです。ビデオカメラは外部にバッテリー部分が露出していて、取り付けると一部が本体から大きく飛び出るような大容量バッテリーもオプションで用意されています。

対照的に、デジカメのバッテリーは本体内部にすっぽり隠れるタイプがほとんどで、容量が決まっています。本体が小型になるほど、バッテリーの容量も少なくなります。撮影時間によっては、バッテリー交換のために途中で何度も録画停止する必要が生じるかもしれません。

ただし、最近はUSB-CケーブルとPD充電器による外部給電に対応した機種が増えているため、電源を確保できる室内撮影であれば、バッテリーに関してはあまり問題ではなくなっています。

ファイルシステムによる4GBの壁

4GB~32GBまでのSDカードはファイルシステムとして「FAT32」が使われています。ファイルシステムとは、記録メディアにデータを書き込む際のもっとも基本的なルールを規定するものですが、1ファイルあたりの最大容量もそういった規定の一つです。FAT32の場合、1ファイルは最大4GBまでと制限されています。

ビットレート24Mbpsで撮影していると、23分程度で4GBに達します。このとき、いったん録画が停まるのか、あるいはファイルを自動分割しながら録画が継続するのかは機種によって異なるため、事前に仕様をよく確かめる必要があります。最近は自動分割しながら録画が続く機種が多いと思います。また、自動分割された動画を、編集ソフトによって映像と音声の途切れがないよう綺麗に繋げられるかかどうかも、機種や編集ソフトの挙動によって違っています。

この4GBの壁に関しては、デジカメに限ったことではなく、ビデオカメラにもあります。しかし、AVCHDのビデオカメラの場合、動画ファイル本体とは別に、プレイリストと呼ばれる目次の役割を果たすファイルがあり、それらが動画ファイル同士の連続性を管理しています。そのため、連続撮影シーンを1GB・2GB・4GBなど一定の容量で分割しながら記録しても、再生時にプレイリストを参照する機器や再生ソフトを使えば、1つの連続したシーンとして扱われます。ファイルの分割点で映像や音声が途切れることはありません。

なお、64GB以上のSDカードではファイルシステムが「exFAT」になります。exFATは1ファイルの最大容量の制限はありません。そのため、最近のデジカメは、64GB以上のカードを使えば分割せずに記録できるものが増えています。

連続撮影するなら今なおビデオカメラ?

このように、デジカメで長時間の連続撮影を確実にこなせるカメラを選ぼうと思うと、仕様表をよく見た上で、実際に使ったユーザーによるレビューを探す必要があり、意外に面倒です。カメラに詳しくない人が、細かな画質よりも長時間の連続撮影を重視する場合は、今なおビデオカメラを選ぶほうが無難かもしれません。

RED社の登場

この連載では基本的に民生用分野での動画機材ついて取り上げていますが、2005年から2007年にかけて、プロ向けの動画機材の世界でも重要な出来事がありました。アメリカのREDデジタルシネマカンパニー社の登場と、同社によるデジタルシネマカメラの1号機の発売です。本項は余談になりますが、最後にこのことについても触れておきたいと思います。

RED社は、日本のカメラメーカーによるデジタル一眼レフの動画撮影対応に先駆けて、ラージセンサー+デジタル動画撮影という組み合わせを実現し、映画制作機材の最初の価格破壊をもたらしました。

元来、35ミリフィルムのシネマカメラは非常に高価で、個人が所有することを前提としておらず、そもそも一般の消費者が販売価格・レンタル価格を目にする機会自体がほぼありません。機材だけではなくフィルムとその現像にもとても費用がかかります。そうした中で、REDデジタルシネマカメラは、APC-SサイズのCMOSセンサーで4K解像度のデジタル動画を撮影し、独自の圧縮RAWフォーマットで記録する機材を、シネマカメラとしては破格の数百万円という価格帯で販売し始めました。映画制作のデジタル化が進んでいく中で、RED社は主要なシネマカメラメーカーの一つになっていきます。

ここでもまた、日本のカメラメーカーの出足が少し遅れたことを指摘できるかもしれません。つまり、RED社が最初に出したカメラは、技術的には日本のデジタルカメラメーカーでも開発可能だったと思います。特に、デジタル一眼レフと業務用ビデオカメラという2つの分野でノウハウを持っているキヤノンには、十分資格があったように思われます。しかし現実には、キヤノンがプロ向けのデジタルシネマ分野にはっきりと踏み込むのは、5D Mark IIの動画機能の大ヒット以降、2011年のことでした(Canon Camera Museum「2011-2015  新たなる映像制作分野への参入」)。

もちろん、こうしたことは結果論に過ぎず、キヤノンやニコンの2005~2006年頃の経営課題や商品開発のリソース配分の中で、ラージセンサーのデジタルシネマカメラの開発が現実的なものであったかどうかはまた別問題です。上記のリンク先の記述によると、キヤノンは最初から映画向けを想定して5D Mark IIの動画機能を開発したわけではなく、リリース後にハリウッドの映画制作現場でも評価されていることを知って、ようやくシネマカメラへの参入を検討し始めています。一方、RED社は、会社の起ち上げのときから、ハリウッドでも使用に耐えるラージセンサーのデジタルシネマカメラの開発という明確な目標を持って出発しています(Wikipedia英語版「Red Digital Cinema」)。デジタルシネマカメラという分野に関してどれくらい早く将来性に気づいていたかという一点に関して、REDと日本のメーカーとのあいだには周回遅れどころか何周分もの差があったようです。こうしたメーカーの姿勢に対する評価は人により見方が分かれると思いますが、RED社が新たな分野の開拓で先行し、市場のいくらかのシェアを得たことは確かな事実です。

さらに余談になりますが、映画におけるフィルムからデジタルへの移行は、単に機材の置き換えに留まらない、撮影方法や演出方法の変化も引き起こしました。たとえば、フィルムでは1巻の長さに制限があり、極端な長回し(ワンカット撮影)は困難でしたが、デジタルになると数十分や数時間の長回しでも比較的容易になります。また、フィルムは再利用ができず、撮影時間が長くなれば長くなるほど、フィルム自体の費用と現像にかかる費用とが増加していきます。35ミリフィルムによる映画制作はカメラが回っているだけで1万円札が何枚も飛んでいくほどにコストがかかるため、1カットに対するコスト意識を強く持たざるをえません。しかしデジタルになると、どれだけ撮り直しを重ねても、記録メディアという部分に関してフィルムほどコストが増えるわけではありません。

2012年にキアヌ・リーブスが制作したドキュメント映画「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」は、まさにそうしたフィルムからデジタルへの移行過程真っ只中にあった映画業界を取材しており、フィルム派・デジタル派それぞれによる様々な見方・考え方を聞くことができます。映画撮影の技術面、機材が映像制作に与える影響に興味がある方にはとてもお勧めです。

次回は…

第4回は、2014年以降、4K動画対応カメラの登場を取り上げます。デジカメ動画は4Kへの対応を含めどんどん高画質化・多機能化していきますが、そうした先進機能には「この高画質オプションを使う場合は別の部分で制限が生じる」というような条件付きのものが多々ありました。そのためデジカメの動画機能の全容は複雑化し、ユーザーがスペックの細部を理解するのが難しくなっていきます。

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