Top > Works > 動画撮影カメラを振り返る 第2回 (2023年2月11日掲載)

動画撮影カメラを振り返る 第2回 ハイビジョンとファイルベース

これまで使ってきた動画撮影カメラとその背景を振り返る連載記事の第2回です。この連載の趣旨は第1回の冒頭をご参照ください。

第2回は、HDVとAVCHDのビデオカメラを使っていた2006~2011年頃を取り上げます。それぞれのフォーマットの最大の特徴を挙げるとすれば、HDVは民生用初のハイビジョンビデオカメラAVCHDはファイルベース記録への移行ということになるかと思います。

今回も第1回と同様に未公開動画を含めたかったのですが、探しても適当なものがなく、掲載済みのものだけになりました。

HDVビデオカメラを使ってみる 2006~2008年

いよいよハイビジョンのビデオカメラへ

2004年10月、ソニーが民生用として初のフルハイビジョン・1080i記録対応のビデオカメラHDR-FX1を発売します。記録画素数1440x1080・インターレースの映像を、MPEG-2圧縮で、MiniDVテープに60分記録できました。FX1は本体が大型のフラッグシップ機種でしたが、2005年、大幅に小型化された、より一般向けのHDR-HC1が発売されます。

HC1は、発売から半年ほど経つと家電店でわりと値引きされて売られているのを見かけるようになります。2006年5月にHC1を購入、何度か使ったあと中古で売却し、キヤノンのHDVビデオカメラiVIS HV10へと乗り換えました。縦型のとてもコンパクトなボディで、画質がシャープだと評判だった機種でした。結局、HDV時代はHV10を最も長く使いました。

サイト掲載作品では、「泥んこ体験2005」「パイ投げ体験その1」がDV、「泥んこ体験2006」「泥んこ体験2007」がHDVで、それより後の作品はAVCHDになります。HDVで撮影した掲載作品は2本だけです。

「泥んこ体験2006」より。HDR-HC1で撮影。
「泥んこ体験2007」より。iVIS HV10で撮影。

「フルハイビジョン」だけど…

HDVの1080i記録は、有効走査線1080本という点で「フルハイビジョン」が謳われていますが、水平方向の記録画素数は1440ピクセルで、再生時に1920ピクセルに伸張して表示される仕組みです。地デジや、放送用のハイビジョンVTRとして主流だったHDCAMもデータ容量削減のため1440x1080ピクセルでしたので、民生用初のフルハイビジョンビデオカメラがそれに倣うのは無理のないことでした。再生時の伸張が絡むとは言え、DV規格の無効領域ありの720x480よりははるかにわかりやすい記録画素数ですので、DVに比べればパソコンでは扱いやすいフォーマットだったと思います。

記録画素数と、実際にそこまで解像できるかどうかは別物

HC1は、「泥んこ体験2006」で初めて作品撮影に使用しました。このとき撮影開始時はあいにくの雨天で、帰宅後にその場面の撮影データを確認すると、照度不足のためハイビジョンらしい精細感がありません。記録画素数から期待される解像度と、実際の撮影動画が記録画素数を活かしきるような解像感で撮れるかどうかはまったくの別物だということを実感しました。ただし、雨がやんで薄日が差してからの映像はDVとは比較にならない精細さで、ハイビジョンの良さを感じました。

頒布はどうする?

せっかくハイビジョンで撮影したのだからなるべく高画質で販売したいと思っても、2006年当時はBlu-rayがまだ登場したばかりで普及しておらず、私もプレイヤーを持っていません。しかも東芝が推す「HD DVD」と規格が分裂していて、激しい競争の真っ最中でした。そこで、パソコンで見ることを前提に、Windows Media Video(WMV)コーデックで720PにエンコードしたものをDVD-Rにデータとして記録して、試験販売してみました(「泥んこ体験2006」ハイビジョン版」)。当時はまだブロードバンド回線の普及が十分ではなく、ダウンロードで容量の大きい高画質動画を販売することは一般化していませんでした。

「泥んこ体験2006」ハイビジョン版」より、720Pのキャプチャ画像。

画質面以外のDVとの違い

HDVはDVと同じMiniDVテープに記録するため、使い勝手の面ではほぼ違いがありません。しかし、ヘッドのよごれやテープの磁性体の不均一でデータがテープに正常に記録できなかったときのノイズの出方に、違いがありました。DVでは、そういった原因のノイズが起きると、1フレーム内の一部分がモザイク状に一瞬つぶれるだけですが、HDVの場合、数フレームに渡って画面全体が静止します。同じ容量のビットのデータが欠落しても、フレーム間圧縮のMPEG-2のほうが広範囲に影響が出るというわけです。なお、こういったテープへの記録不良により起きるノイズは、動きが激しい被写体をフレーム間圧縮で動画撮影した場合に生じるブロックノイズとは別物です。

DVとHDVでは、テープへの記録不良によるノイズを完全に回避するのは難しかったようです。テープメディアの時代には、ビデオカメラもビデオデッキも、ヘッドのよごれが蓄積しないよう、ときどきヘッドクリーニングをする必要がありました。私はHDVのクロッグノイズにはそれほど遭遇しませんでしたが、デジカメ写真のようにメモリーカードに記録するカメラが出てきたら乗り換えたいものだと思いました。

ソニーHDR-HC1 基本情報

使用時期:2006年
製品ジャンル:民生用ビデオカメラ
メーカー・機種名:ソニー HDR-HC1
有効センサーサイズ・有効画素数:1/3.3型 198万画素
レンズ焦点距離(35mm判換算):5.1~51mm (41~480mm)
規格:HDV
記録メディア:MiniDVビデオカセットテープ
動画コーデック:MPEG-2 (フレーム間圧縮)
記録画素数:1440x1080 (再生時にアスペクト比16:9に伸張)
フレームレート:60i (インターレース)
ビット深度・色信号:8bit 4:2:0
動画ビットレート:25Mbps
音声コーデック:MPEG-1 Layer2 (MP2)

キヤノンiVIS HV10 基本情報

使用時期:2006~2007年
製品ジャンル:民生用ビデオカメラ
メーカー・機種名:キヤノン iVIS HV10
有効センサーサイズ・有効画素数:1/3型 207万画素
レンズ焦点距離(35mm判換算):6.1~61mm (43.6~436mm)
規格:HDV (以下はHDR-HC1と共通)

iVIS HV10の外観

縦型と呼ばれた形状です。レンズ部分が上部、テープ部分が下部にあります。後にメモリーカード記録が主流の時代になると、縦型は消滅しました。

AVCHDビデオカメラを使ってみる 2008~2011年

ビデオカメラもファイルベース記録へ

2008年3月頃から、AVCHD規格のビデオカメラ、キヤノンiVIS HF10を使い始めました。HF10は本体に16GBのメモリーを内蔵し、H.264(別名「MPEG-4 AVC」)圧縮・17Mbpsでフルハイビジョンの1080i映像を記録することができました。

AVCHDが従来のHDV・DVと異なるもっとも大きな点は、記録メディアがビデオテープからSDカードをはじめとするメモリー系へと移行したことです(Wikipedia「AVCHD」)。ようやく、デジカメの写真と同じように、パソコンで扱える動画ファイルをメモリーカードに記録するスタイルになりました。そのような動画ファイルによる記録形式を、映像業界ではファイルベースと呼んでいるようです。

HDV・DVの場合、撮影素材をパソコンに取り込むには、i.LINKケーブルでパソコンとビデオカメラを接続して、動画をリアルタイムで再生しながら、編集ソフトや専用のキャプチャソフトを使ってパソコンに取り込む必要がありました。AVCHDでは、その工程が単なるファイルコピーになりました。

AVCHDはファイルベース記録という点を活かして、特定の記録メディアに縛られることなく、SDカード・メモリースティック・HDD・DVD・BDなど様々な記録メディアのビデオカメラが登場しました。ソニー・パナソニックは、製品ジャンルの垣根を越えて、ビデオカメラだけではなくデジカメの動画機能の記録方式にもAVCHDを採用しました。従来、ビデオカメラの規格は、記録メディアとなるビデオテープの規格と一体不可分のものでした。そのビデオテープに対応したカメラやデッキの販売が終わると再生ができなくなるため、メーカーとユーザーの両方にとって規格が統一されていて広く普及していることが重要でしたが、ファイルベースへの移行によって、再生にはパソコンさえあればOKで特別なハードウェアは要らなくなります。「ビデオカメラの統一規格」の重要性は大幅に低下しました。AVCHDはそういった統一規格の最後のものと言えます。

「泥んこ体験その5 蔵出し・晩夏編」より。
「泥んこ体験その10」より。
「パイ投げ体験その5 奔放編」より。
「パイ投げ体験その6 彫像編」より。

横1920ピクセルの記録に対応

HDVは横方向を1440ピクセルに圧縮しますが、HF10も含めAVCHDは1920x1080ピクセルの記録にも対応します。これにより解像感が上がるのでは、と期待しましたが、実際には、HF10をそれまで使っていたHDVのHV10と比較すると、画質の差は感じないか、むしろHV10のほうがシャープだった印象です。

たしか2000年代の前半だったと思いますが、放送用・業務用のHDCAM規格のハイビジョンビデオカメラからキャプチャされた静止画を載せていたサイトがあり、それらの画像はHDVやAVCHDのビデオカメラよりもずっと解像感がありました。放送用と民生用ではセンサーサイズ・動画圧縮方式・レンズ性能が違っているため、画質が違って当然ですが、1440x1080ピクセル・インターレース記録という点はHDCAMとHDVで共通しています。民生用ビデオカメラはフルHDの限界にまったく達していないということは一目瞭然でした。

当時の民生用ハイビジョンビデオカメラは横1440ピクセル程度でも十分だったのだろうと思います。

ずっと広角側が狭い!

民生用ビデオカメラはたいてい光学10倍~20倍程度のズームレンズを搭載しています。1990年代から2000年代を通じて、ビデオカメラの広角側の焦点距離は35mm判換算で40mm前後というのが主流でした。35mm判換算の焦点距離はレンズの映る範囲(画角)を間接的に示す数値です。カメラに詳しい方でしたらご理解いただけると思いますが、換算40mmというのは、デジカメの標準ズームレンズの広角側や今のスマートフォンで一般的な換算24~30mmに比べてやや窮屈で、狭い室内だと、被写体との位置関係や撮りたい構図によっては少々使いにくいスペックです。

おそらく、広い体育館で入学式・卒業式を撮る、広い運動場で運動会を撮るといういわゆるファミリー需要においては、広角側が少し狭くても問題がなく、むしろ望遠側のほうが重視されていたためかと思います。望遠側をなるべくズームアップできるようにするには、広角側も狭いほうがレンズ設計上有利だそうです。

記録解像度や記録メディアが変化しても、ズームレンズのスペックには大きな変化はありませんでした。その後、2010年代になってようやく、ビデオカメラでも広角側が換算30mm前後の機種が増えていきます。

ビデオカメラの広角側と、デジカメの標準レンズの広角側

左はビデオカメラの広角側(換算40mm前後)、右はデジカメ動画の標準ズームレンズの広角側(換算24mm)です。被写体から同じような距離でも、これだけ映る範囲が違います。

メモリー記録にはメモリー記録ならではの不安がある?

AVCHDへの移行によってHDVのクロッグノイズとは決別できましたが、一般に、メモリー記録には別の懸念があるとされていました。それは、データの書き込みが完了しない段階で電源が遮断されたり、本体に強い衝撃があってデータの書き込みが想定外の形で中断された場合に、その動画ファイル全体が読み取り不能になるおそれがあるという点です。テープ記録の場合は、そういった原因で撮影が停止しても、それまでの動画データが消えることはありません。そのため業務用や放送用では、メモリー記録という選択肢が登場してからも、信頼性の点で敢えてテープ記録が好まれるという状況があったそうです。

私も、ネット上でそういった信頼性に関する議論を目にしたことがあったため少し気になりましたが、一度メモリー記録の手軽さ・便利さに慣れてしまうと、テープメディアに戻ろうとはまったく思いませんでした。

最近のカメラでは、電源の遮断があっても、その時点まで撮影していた動画ファイルを読み取れるようになっている機種もあるそうです。

「マスターテープ」という概念がなくなった

ファイルベースに移行してなくなったのが、「マスターテープ」という概念です。DV・HDVまでの時代は、撮影したビデオテープはマスターテープとしてそのまま保管するのが習慣でした。しかしSDカードでの記録になると、カードを毎回そのまま保管というわけにはいかず、パソコンに動画ファイルを取り込んでデータとして保管することになります。そのデータは何個でも複製可能で、もはや特定の記録メディアと一体のものではありません。

アナログ記録の時代には、ダビングをするたびに劣化がありますので、マスターテープは唯一無二の存在でした。デジタル記録のDV・HDVになると、無劣化での複製は可能ですが、それでもやはりマスターテープに唯一性が感じられたような気がします。テープメディアの場合、ファイルベースのようにコピー操作でバイナリとファイルサイズが完全一致するというような世界ではなかったせいでしょうか。

HDV・DV時代のマスターテープ

Blu-ray版の販売と、YouTubeのハイビジョン対応

2008年2月に東芝がHD DVDからの撤退を表明、次世代DVDの規格はBlu-rayに一本化されました。Blu-rayを再生できるPS3がわりと普及していたこともあり、2008年、Blu-ray版の作成に踏み切ります(「泥んこ体験2007 Blu-ray版」)。2019年までDVDとBlu-rayを販売し、「格安BDプレイヤーを試してみる」という記事も作成してBlu-ray版を推したこともありましたが、ついぞ、同一作品でBlu-rayがDVDの売上を上回ることはありませんでした。

個人制作の動画を720P・1080P画質で見せることを身近なものにしたのは、ディスクメディアよりもYouTubeの功績が大きいと思います。YouTubeは、2005年の開始当初は低画質でしたが、2008年には720Pに対応、2009年に1080Pにも対応します。それ以来、他の動画配信サービスに先駆けて最先端の配信形式に対応していくようになります。2008~2009年頃はHD対応の動画サイトがまだ珍しく、「YouTubeのHD対応を試してみる」「YouTubeの1080P対応を試してみる」という記事を作成しました。

「泥んこ体験2007 Blu-ray版」より、フルHDのキャプチャ画像。
「白塗りその1」より。

YouTubeの720P対応のときに試しに載せたため、動画タイトルが「HD upload test」になっています。

新たな選択肢の出現

AVCHDのHF10は結局3年ほど使いましたが、今思い出してみると、メインで使っていたカメラの中ではもっとも印象が薄い機種かもしれません。ハイビジョン動画をファイル記録できるという点で民生用ビデオカメラとしては一つの完成形ですが、HF10はHDVのHV10よりも画質面で綺麗になったわけではありません。全メーカー横並びのセンサーサイズやレンズスペックを考えると、おそらく他のAVCHDのビデオカメラに買い換えても劇的に変わることはないだろうと思いました。

そうした中で、2008年後半を皮切りに、デジカメのほうで、動画の撮れるデジタル一眼が次々と登場していきます。これにより、動画を撮る道具としてまったく新たな選択肢が出現することになります。この点が次回の第3回のテーマになります。

キヤノンiVIS HF10 基本情報

使用時期:2008~2011年
製品ジャンル:民生用ビデオカメラ
メーカー・機種名:キヤノン iVIS HF10
有効センサーサイズ・有効画素数:1/3.7型 207万画素
レンズ焦点距離(35mm判換算):4.8~57.6mm (42.9~514.8mm)
規格:AVCHD
記録メディア:SDカード、カメラ本体内蔵メモリ
動画コーデック:H.264 (フレーム間圧縮)
記録画素数:1920x1080
フレームレート:60i (インターレース)
ビット深度・色信号:8bit 4:2:0
動画ビットレート:平均17Mbps
音声コーデック:ドルビーデジタル

HF10の外観

三脚の上にあるのがHF10です。「横型」あるいは「シューティングスタイル」と呼ばれる形状です。メモリーカード記録が主流になって以降の機種はほぼこの形状だけになりました。

これより以下は、余談というか、追加の考察となります。

動画ファイルの基本属性 コーデックとコンテナ

少し脱線しますが、パソコン・スマートフォン時代になると動画ファイルに関して「コーデック」と「コンテナ」という言葉が記事中に頻出しますので、簡単にご説明しておきます。パソコン・スマートフォンの動画ファイルには様々な形式があり、形式の違いを生む最も基本的な属性が、「コーデック」と「コンテナ」です。コーデックは動画の圧縮方式のことで、MPEG-2・H.264・H.265などがあります。コンテナは動画と音声の格納方式のことで、MP4・MOV・AVI・MKVなどがあります。これまた正確な喩えではありませんが、コーデックが車のエンジン部分にあたるとすれば、コンテナは車のボディのようなものです。エンジンにはガソリン・ディーゼル・ハイブリッド・電気などの違いがあって、ボディにはバン・ワゴン・セダンなどの違いがあるようなものです。

コーデックは、圧縮効率の違いや画質の違いを生み出し、それにより役割の違いも生じます。圧縮率が低いコーデックは多くの記録容量を必要としますが、そのぶんブロックノイズやモスキートノイズが起きにくく、デコードの負荷が低いため、カメラでの撮影素材の記録と編集に向いています。圧縮率が高いコーデックは、電波の帯域やデータ量を抑える必要があるテレビ放送やYouTube、長時間の撮影に向いています。具体例を挙げると、DV圧縮やApple ProResのような低圧縮コーデックは撮影向き、H.264・H.265など高圧縮コーデックは頒布向きとされています。ただ、現在ではH.264やH.265は撮影にも主流で使われています。

コンテナのほうは存在意義が少々捉えにくいかもしれません。コンテナは、たとえば、どの動画コーデック・音声コーデックの格納に対応するのか、動画やステレオ音声を何トラック格納できるのか、5.1chや22.2chなどサラウンド音声を格納できるのか、字幕トラックの格納に対応しているのか、チャプター機能に対応しているのか等々、主に画質以外の部分の機能性や使い勝手を左右します。いくつか例を挙げると、AVIは歴史の古いコンテナで、フレーム間圧縮のコーデックの格納を想定していません。MVKは比較的新しいコンテナで、多くのコーデックに対応し、メタデータを柔軟に格納できます。TS(トランスポートストリーム)コンテナは、放送波でも使われ、マルチチャンネル(サブチャンネル)放送も想定して動画トラックを複数格納できます。MXFは放送業界で標準のコンテナで、動画・音声以外にもメタデータとタイムコードの格納に対応していますが、民生用ではほぼ使われることはありません。

ふだん見る動画は、動画が1トラック、ステレオ音声が1トラック収録されていれば事足りる場合が多いため、コンテナの違いによる機能性の違いを意識する場面は少ないと思います。

AVCHDのフォルダ構造が複雑だった理由

パソコンで扱いにくかったAVCHD

デジカメの写真や動画のパソコンへの取り込みは、JPEGやMP4・MOVなどのファイルをコピーすればそれでOKですが、AVCHD規格の動画はフォルダ構造が複雑で、取り込みのときに少し戸惑われた方もおられるのではないかと思います。しかも、AVCHDが採用しているTSコンテナは、AVCHD登場時のWindows標準の動画プレイヤーで再生することができず、パソコン時代のフォーマットでありながら、パソコンとの親和性が高いとは言えない側面がありました。

AVCHDはソニー・パナソニックが主導し、最初の規格発表段階では記録メディアはDVDとされていました(ITmedia News「8センチDVDでハイビジョン撮影――MPEG-4 AVC/H.264採用の新ビデオ規格「AVCHD」」 。そしてBlu-rayと同じコンテナ・コーデック・フォルダ構造にすることで、Blu-rayプレイヤー・レコーダーがAVCHDの再生に対応しやすいように意図されていました。メモリーカード記録の場合には動画の保存のためにいったんパソコンに取り込む必要がありますが、DVDを記録メディアとすることで、テープ時代と同様に撮影済みDVDをそのまま保存すればOKということになります。パソコンに取り込まない限り、ユーザーがフォルダ構造を意識する場面は生じません。このように、もともとのAVCHD規格はパソコンがなくても使えるように設計されたとても家電メーカー的な規格でした。

規格策定時にコンセプトがぶれた?

ところが規格の発表直後に、AVCHDの記録メディアとしてメモリーカードやHDDも追加され、DVD用の複雑なフォルダ構造がそのままメモリーカード記録にも転用されました(ITmedia News「MPEG-4 AVC/H.264採用のビデオ規格「AVCHD」がSDやHDDにも対応」)。おそらく、記録メディアの種類ごとにフォーマットを用意するよりも、SDカードであれHDDであれ全部フォルダ構造を統一するほうが、USB端子経由でAVCHDの動画をBlu-rayレコーダーに取り込むというソリューションに対応しやすくなるメリットもあったのだろうと思います。

しかし、本来Blu-rayの複雑なフォルダ構造は、メニューやインタラクティブな操作を必要とする映画やアニメなどの映像ソフトの頒布用であって、そこからさらに編集することを想定したものではありません。H.264についても同様です。今でこそH.264動画の編集のハードルはかなり低くなりましたが、もともとは頒布用であり、登場時には編集のことはほぼ考慮されていない、とてもデコードの負荷が高いコーデックでした。こうしたことから、ビデオカメラで撮影した素材をいったんパソコンに取り込んで編集したいクリエイターにとっては、AVCHDは却って使いにくい部分があるフォーマットになってしまいました。

他の選択肢もあった?

全メーカーが完全にAVCHD一辺倒だったわけではなく、ビクターはパソコンでの編集が比較的しやすいMPEG-2コーデックの動画をファイルベース記録する機種も出していました(AV Watch「ビクター、AVCHD/MPEG-2両対応のHDD搭載「Everio」」)。

AVCHD以前からファイルベースの民生用ビデオカメラは販売されていて(ITmedia NEWS「気がつけばフェードアウト?  ビデオカメラの歴史を振り返る」)、特に三洋のXacti(ザクティ)シリーズは、「静止画と動画を1台で」・「パソコンとの親和性の高い動画」を基本コンセプトにした、その後のデジカメ動画の先取りとも言える存在でした(Wikipedia「Xacti」)。しかしソニー・パナソニック・キヤノンが強力にAVCHDを推したこともあり、2008年頃から2010年代半ばにかけては、民生用ビデオカメラの売れ筋はほとんどAVCHDという状況だったように思います。

AVCHDはDV・HDVのように生産終了した規格ではなく、今もソニー・パナソニックのビデオカメラとデジカメの現行機種に、動画の記録フォーマットの選択肢としてAVCHDが残っているものがあります。

フェードアウトしつつあるビデオカメラ

ビデオカメラの国内出荷台数は最盛期の9分の1

民生用ビデオカメラの国内出荷台数は、スマートフォン普及以前の時期に限っても一貫して右肩上がりというわけではなく、2000年から2013年頃までは135万台から186万台のあいだで増減を繰り返しています。ピークは2012年の186万台です。2013年以降は急速に減少していき、2022年には約21万台になりました(JEITAの統計資料)。最盛期の約9分の1まで縮小したことになります。

キヤノン・ビクターは既に民生用ビデオカメラから撤退し、残る国内メーカーはソニー・パナソニックのみとなりました。その2社も、ここ数年は旧機種のマイナーチェンジモデルを発表するのみで、センサー・レンズ・画像処理プロセッサのいずれか1つでも更新した新機種は長らく出ていません。

市場の縮小の原因は、スマートフォンの普及とデジカメの動画機能の高性能化が大きいと思いますが、ビデオカメラという製品ジャンルの下記のような硬直性も、一因だったと推測しています。

変化に乏しかった基本構造

ビデオカメラは、記録メディアや記録解像度の変遷があったものの、形状と光学性能はほぼ一貫していました。すなわち、センサーは1/3型~1/6型、レンズは光学10~20倍のズームレンズでボディ内に内蔵、バッテリはボディの外部に露出させて体積の大きい大容量バッテリーにも対応、という基本構造です。

これらは、「本体は小型軽量がよくて、我が子が参加する入学式・卒業式・運動会をまるごと撮りたい、クローズアップも撮りたい」という、いわゆるファミリー需要に応えるためにはぴったりのものでしたが、上記以外の構造のビデオカメラはほとんど提供されてこなかったと思います。

特にセンサーサイズとレンズについては決定的で、結局、デジカメで1型センサー機種が人気になるまでは、ビデオカメラの側でセンサーを大型化しようという独自の動きは起きませんでした。また、センサーサイズに多様性がないことで、レンズの多様性も生まれませんでした。デジカメでは、大きめのセンサーと明るい単焦点レンズという組み合わせのコンデジも登場しましたが、ビデオカメラではそういったレンズスペックとセンサーサイズの多様性の幅はずっと狭いままでした。

スモールセンサーでの高画素化と先祖返り

民生用ハイビジョンビデオカメラは、センサーサイズをSD時代と同じく1/3型~1/6型の範囲に据え置き、センサー画素数のみを大幅に増やしました。一般に、1画素あたりの面積が狭くなるほど感度(暗いところでも綺麗に撮れるかどうかの性能)に関して不利になるとされています。HDVやAVCHDビデオカメラの登場当初、センサーの画素数はフルHDに必要十分な200万画素前後でしたが、その後、写真機能の向上に対応するためかセンサーの画素数が増えていき、感度に関してはさらに不利になる状況が生じました。

そうした中で、2011年のキヤノンのフラッグシップ機種は、センサー画素数を再び200万画素前後に抑える方向性に転換し、感度性能の改善を売りにします(ITmedia News「業務用と同一の「HD CMOS PRO」搭載、シリーズ史上最高画質“iVIS”「HF G10」」)。しかしこれは見方を変えると、スモールセンサーのまま必要以上に高画素化することの限界を認めて、いったん民生用ハイビジョンビデオカメラ登場時の振り出しに戻ったとも言えます。AV Watchの記事にある、G10・2010年のフラッグシップ機種・2007年のHDV機種を比較した表は、そのことをよく示しています。このときメーカーは、センサーサイズのほうを大きくしてみよう、という方向性を採用しなかったわけです。

もちろん、スモールセンサーも本体の小型化やピントの挙動に関しては大きな利点になります。現在のスマートフォンもスモールセンサーです。問題は、ほぼずっとスモールセンサー機種しか選択肢に存在しなかったということでした。

アクションカムの先導者になりえたか?

基本設計が変化しなかったことで、ユーザーに新たな使い方を提案してそれまでにない需要を掘り起こす、ということも後回しにされました。

最近、ビデオカメラではGoProやDJIなどに代表されるアクションカムというジャンルが唯一活況を呈しています。車・自転車・アスリートの体などに装着してアクションの主体者視点の迫力のある映像を撮るカメラです。技術的には、日本のメーカーが先行してアクションカムを作れたはずでした。現実には、GoProが2010年から2011年にかけてアクションカムの世界的なヒット機種を出してから、日本のメーカーは後追いで参入する形になり、シェアで追いつけないまま、海外メーカーにアクションカムの市場の主導権を明け渡す結果となりました。

上記の国内出荷台数のグラフは、国内メーカーのアクションカムは数に含まれますが、GoProなど海外メーカーのアクションカムは含まれていません。

それでも現在のデジカメはビデオカメラを完全には代替できない

このようにビデオカメラの市場規模はかなり縮小していますが、では現在のデジカメのラインナップがビデオカメラを完全に吸収できるのかと言えば、必ずしもそうではありません。

デジカメは長時間の連続撮影を苦手とする機種がまだ多く、その点はビデオカメラに分があります。また、デジカメで動画に力を入れた機種はレンズ交換型を中心とするラージセンサー機種に限られており、「スモールセンサー且つ動画重点」という機種は意外に存在していません。センサーサイズについては「大は小を兼ねる」とは言い切れないところがあり、第1回でも少し書いたようにピントの挙動に関してはスモールセンサーならではの利点も存在します。ラージセンサー一辺倒という状況は選択肢を狭めています。

もし現状のままソニー・パナソニックが従来型のビデオカメラから完全撤退すると、動画撮影カメラの選択肢の一部に空白が生じることになります。業務用ビデオカメラがなくなることはないと思いますが、民生用に比べると総じて高価です。ビデオカメラならではの使い勝手が必要なユーザーは、今のうちにビデオカメラを確保しておくほうがいいかもしれません。

次回は…

第3回は、2011年から2014年頃、デジタル一眼での動画撮影を始めた時期を取り上げます。動画機能を強化したデジカメという、ビデオカメラ以外の選択肢がいよいよ登場します。

【12月23日追記】第3回を掲載しました。

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