Top > Works > 動画でRAW撮影を試してみる (2020年7月24日掲載、11月17日更新)
最近、動画でのRAW撮影のハードルが徐々に低くなってきました。昨年末、ブラックマジックデザイン(BMD)社の「Blackmagic Pocket Cinema 4K」という、RAW動画の撮れるデジタルビデオカメラを入手し、何度か使ってみました(以下、略称「BMPCC4K」)。以下はその試用リポートです。技術的に関心がありましたらどうぞ。
文中でもご紹介していますが、動画のRAW素材を実際に編集してみて、その軽さを試してみたいという方のために、オリジナルのサンプルファイルも掲載しました。
なお、このページでは、従来のH.264やH.265圧縮による一般的なデジカメ動画のことを、便宜的にMP4動画と呼ぶことにします。
RAWについて詳しく説明すると長くなりますのでごくごく簡単になりますが、デジカメは、イメージセンサー(レンズを通して受けた光を電気信号に変える装置)からの出力データに様々な加工や圧縮を施した上で、JPEG写真やMP4動画を記録しています。それに対し、イメージセンサーのデータを加工せずに記録するのがいわゆる「RAW」による記録です。「デジカメの高性能動画機種をまとめてみる」ではもう少し詳しくRAW撮影の仕組みについて触れていますので、そちらもご参照ください。
これまで、デジカメ写真のRAW記録はごく一般的だったのに対し、動画のRAW記録はデータ容量の大きさやパソコンでの処理の重さといったハードルからほぼプロ向けに限られていました。しかし最近になって、AppleやBMDなど海外メーカーが動画用の特殊な圧縮RAW形式を開発し、それらに対応するデジカメが登場し始めました。
特殊な非可逆圧縮が施されている点から写真の場合のRAWとは違っており、厳密には「編集時にRAWに近い柔軟性を提供する動画圧縮コーデックの一種」とでも言うほうが正確ですが、メーカーのあいだでは、動画に関しては、記録信号に12ビットの深度があって撮影後に自由にガンマカーブと色温度を設定できるのであればとりあえずRAWと呼んでもいいだろう、というくらいの共通理解があるようです。このページでもそういった圧縮RAWによる動画のことをRAW動画と呼ぶことにします。
RAW動画撮影のわかりやすいメリットの一つは、MP4動画に比べて記録できるダイナミックレンジ(もっとも明るい部分と暗い部分の幅)が広く、撮影後の露出補正の自由度が高いことです。写真でRAWを扱ったことがある方でしたら、「JPEGだと白が飛んでいるけどRAWには階調が残っている」というパターンを思い浮かべていただければ、ご理解いただけるかと思います。この点は、まみれ系撮影では大きなメリットだと思います。
まみれ系の動画撮影の場合、素肌から白い素材や黒い素材をかける、白い素材の上から黒い素材をかけるなど、連続する時間軸で適正露出が大きく変化する場面が多々あります。
私は撮影時の露出補正に関しては長らくマニュアル露出を用いていて、場面に応じてなるべく見やすいあるいは見栄えの良い露出になるようにリアルタイムで設定しています。しかし、現場はモデルさん1人・カメラマン1人ということも多く、素材をかけたり投げたりするためにカメラから離れざるを得ない場面も頻繁にあります。そのため、撮影後に動画をPCに取り込んで確認してみると、この場面は露出をもうちょっと明るくしておけばよかったとか、逆にもっと暗くしておけばよかったなどと感じるシーンがこれまで何度もありました。
たとえば「ペイント体験その6 天性編」の以下の画像左のシーンは白が飛んでいて、これももう少し露出をアンダーにしておくべきだったと感じる場面の一つです。逆に「ペイント体験その1」の画像右のシーンはもう少し露出を上げたほうがよかったかもしれません。これらは一例に過ぎず、同様の場面を細かく列挙するとおそらくきりがないと思います。
動画でも写真のようなRAW撮影ができたらきっと便利だろうなあ…というのは以前から感じていたことでした。
「ペイント体験その36 バケツ原液編」はBMPCC4KのBlackmagic RAWにより収録しました。以下は、同作品の終盤、モデルさんに白と黒の絵の具をかけるシーンより、RAW素材からの2種類の書き出しサンプルです(素顔部分にはボカシを入れています)。
1つめの動画は、撮影時のカメラ本体と同じ露出設定のまま、動画を書き出しました。BMPCC4KではRAWとMP4動画の同時記録はできないのですが、もし仮に可能だとしたら、MP4動画のほうはこのような見栄えで撮れていたことになります。写真で言うところの「JPEGの撮って出し」に相当します。絵の具をかける前の状態と後半の黒のときに露出が合っていますが、白絵の具をかけるところは白飛びしています。
2つめの動画は、編集時にRAW素材に対して、白飛びしないよう、且つ、黒絵の具の部分が暗くなりすぎないよう、露出補正をして書き出したものです。撮影時の設定による書き出しでは白飛びしている箇所もRAWでは飛んでおらず、階調がしっかり残っていることがわかります。黒がメインになる後半部分に関しては、もう少し露出を上げてもよかったでしょうか。もっと細かく設定を追い込むこともできます。
これまでの作品の白飛び箇所も、おそらくセンサー出力段階では階調が残っていた可能性が高いと思います。カメラ操作と素材をかけるアクションの両立が難しい現場ではRAW収録は役立ちそうです。
ご自身も撮影されてカメラにある程度詳しい方であれば、1つめのほうが撮影時の設定での書き出しだとしたら、撮って出しが盛大に白飛びするような設定で撮っていたのか、だとすれば露出に関して現場では何をモニタリングしていたのか?という疑問を持つ方もおられるかと思います。
実際のBMPCC4Kでの撮影時には、センサーのダイナミックレンジ全域を確認できる「Blackmagic Film」というガンマカーブを仮に適用したものをカメラの液晶画面に表示し、センサー段階での白飛び・黒つぶれがないかどうかだけをモニタリングしていて、そこから同じ露出設定のままRec.709のガンマカーブで書き出したときにどうなるかは現場では確認していません。RAWであれば、編集時に撮影時そのままの露出設定で書き出す必要はまったくなく、目的のガンマカーブに最適な出力になるよう、事後に柔軟に設定を選べるからです。そのため、露出に関して、現場では大変に気が楽です。MP4動画であればすべて現場で設定を選ぶ必要があります。
と、ここまで撮影時にマニュアルの露出補正をする前提で書いてきましたが、白飛び黒つぶれを避けることだけが目的であれば、通常のMP4動画の場合、カメラの自動露出補正に任せるという選択肢ももちろんあります。多くの場合それが無難だと思いますし、特に少し引きの位置から固定カメラを回しっぱなしにする場合は、露出オートが安全だと思います。
経験上、自動露出補正では白素材のときに理想的な露出よりも暗く、黒素材のときにやはり理想より暗く、映る傾向があるような気がしますので、それを見越して露出補正を少しプラスに振った上で自動露出に任せるのがいいかもしれません。
過去に露出オートで撮影したときの一例として、「メイクその7」を挙げておきます。この撮影では自動露出とマニュアル露出を併用していましたが、5分40秒過ぎ、白粉を塗っていくところは自動露出で、塗る面積が広がるにつれ、露出が徐々にアンダーになっていくことがわかります(キャプチャ画像1枚目)。6分50秒あたりからはマニュアル露出で、こちらのほうが本来求めていた明るさ・白さです(画像2枚目)。こういった個人的な経験と好みから、マニュアル露出のほうが思い通りの結果が得やすい気がして、多用するようになりました。
マニュアル露出派で、特に明るい色の素材の撮影のときにぎりぎりまで露出を上げたい場合などは、RAW動画のメリットは大きいと思います。繰り返しになりますが、露出の操作のかなりの部分を、現場ではなく編集段階に持ってくることができます。
一般的なMP4動画ではRec.709と呼ばれる色空間・ガンマカーブで記録されますが、RAWに比べて編集時の柔軟性を狭める最大の要因が、このガンマカーブの事前決定です。RAWでは記録段階で特定のガンマカーブが適用されることなく、編集時点でガンマカーブを選ぶことが可能です。Rec.709とは完全な別物であるHDR(ハイダイナミックレンジ)については後述しますが、SDR(スタンダード・ダイナミックレンジ)の範疇でも、コントラストを少し犠牲にすることでSDRのガンマカーブの中に通常のRec.709よりも見かけの上でやや広いダイナミックレンジを押し込む、などの小細工が可能です。
「ペイント体験その35 2020春」は、編集ソフト「DaVinci Resolve」で書き出す際、「Extended Video」という設定と「Video」(=ほぼRec.709)という2種の違った設定を使ってみました。それぞれYouTubeとVimeoに載せましたが、興味がありましたら両者を見比べていただければと思います。以下に左右連結した比較のダイジェスト動画も掲載しておきます。
左側のYouTube版(「Extended Video」)のほうが背景など暗部の情報が比較的残っていて見かけ上のダイナミックレンジが広いですが、素材表面の凹凸が少し目立たなくなっていて、全体にやや低コントラストです。右側のVimeo版(「Video」)は一般的なRec.709に近い設定での書き出しで、こちらのほうがコントラストがはっきりしていますが、背景など暗部の情報はあまり残っていません。
なお、後述のHDRであれば、高コントラスト・高ダイナミックレンジの両立が可能です。
最初からYouTube版のような見栄えで撮ったMP4動画からVimeo版のように変換する、あるいはVimeo版のようなMP4動画からYouTube版のような見栄えに変換するのは、おそらくかなり面倒なのではないかと思います。このように編集時に全然違った見栄えを選べるのは、ガンマカーブを後から選べるRAW収録ならではです。
編集時にホワイトバランスを自由に設定できるのもRAW撮影のメリットですが、この点はまだまみれ系の撮影での良いサンプルがありません。とりあえずテストの風景撮影のクリップを再掲しておきます。左側が色温度3200、右側が色温度5000です。MP4動画であれば、撮影時に色温度を選ぶ必要がありますが、RAWでは後から自由に変更できます。
色調も自由に作り込む自主映画やミュージックビデオなどと違って、まみれ系撮影のような記録動画ではホワイトバランスの自由度の幅はさほどないかもしれません。しかし、編集時に選べるのはやはりメリットだと思います。
RAW動画以外に、一般的なMP4動画よりも広いダイナミックレンジを記録して編集時の柔軟性を高める手法として、撮影時に特殊なガンマカーブを用いるLog記録と呼ばれる方法もあります。
Logについてはあまり試したことがないため、私には詳しい評価はできません。Log記録ではホワイトバランスの変更はできませんが、露出の制御に関しては、このページで書いているようなことはLog記録でももしかしたら再現可能かもしれません。
以前に少しだけLogを触った印象としては、編集時に綺麗な出力を得るには撮影時の設定で気をつけなければならないLog記録独自のノウハウがあったり、ちょっと扱いが難しそうな印象を受けました。一方、RAWのほうは、そういった難しさは感じませんでした。
デジカメ写真では、RAWでも通常のJPEGでもない、LogガンマカーブによるJPEG記録という中間的な手法はありません。動画のほうでも、RAWのハードルが下がっていけば、Logの出番は少なくなっていくかもしれません。ただ、Logはフレーム間圧縮と組み合わせることも可能でRAWよりも記録容量を大幅に抑えることができますので、ストレージの負荷と加工の柔軟性のバランスを求める中で、需要が残る可能性があるかもしれません。
以前は動画のRAWといえばとにかく処理が重いイメージでしたが、最近登場した動画用の圧縮RAWは、ある程度の性能のGPU(グラフィックボードの画像処理装置)があればさほど負荷なく編集できるように設計されています。
記録画素数・フレームレート・圧縮RAWコーデックの種類にもよって編集の重さは変わりますが、以下の素材・環境で1ストリームをカットして書き出す程度であれば、無理なく編集可能でした。
素材:UHD(3840x2160)・60fps・Blackmagic RAW
編集ソフト:DaVinci Resolve 16
GPU:AMD Radeon RX 570またはNVIDIA GeForce RTX2070 (いずれもGPUメモリ8GB)
とは言え、MP4動画であれば編集ソフトによってはCPUのみで楽に編集できますので、それに比べるとハードウェアの要件は厳しいと言えます。
一方、記録メディアの容量はそれなりに必要です。Blackmagic RAWでは圧縮率を選択できますが、UHD・30fpsの場合、もっとも圧縮率の低い3:1モード(無圧縮RAWに比して3分の1に圧縮)で1秒間に約118MB、128GBに約17分ほど記録できます。8:1モードでは1秒間に約44MB、128GBで約45分になります。
記録画素数が6Kになったり、フレームレートが60fpsになったりすると、そのぶん容量は増えます。最大12:1圧縮のモードもありますが、非可逆圧縮のため細部の解像度がやや落ちるのとトレードオフになります。
デジカメで動画に力を入れた機種にはMP4動画のバリエーションとして「オールイントラ」と呼ばれるフレーム内圧縮記録を採用している機種もあり、たとえばGH5という機種で4K30fpsをオールイントラ記録した場合のビットレートは1秒約48MBほどです。それだと上記Blackmagic RAWの8:1圧縮と大差ない容量になります。MP4のオールイントラ記録モードを備えるなら、大して容量が違わない圧縮RAW記録モードを採用してほしいという需要も出てくるかもしれません。
RAWはビットレートが高いため書き込み速度の高速な記録メディアが必要で、SDカードの場合はUHS-IIという高速規格対応のカードが必要です。なお、BMPCC4Kでは、カードスロットのCFastカード・SDカード以外に、USB-C端子に外付けのSSDドライブを接続して記録メディアとして使用することができます。SSDはSDカードに比べて高速且つ大容量のものが安価に入手できるため、その点は大変に助かりました。
ご参考まで、Blackmagic RAW(braw)ファイルのサンプルを2つ、Googleドライブに掲載しておきます。編集の軽さを確認してみたい方はどうぞ。以下のVimeoにあげた2シーンの元のファイルに相当します。1つは未公開作品からの絵の具シーン、もう一つは「ペイント体験その35 2020春」からのクレーのシーンです。
上記の動画ファイルだけをダウンロードしても、通常の動画再生ソフトでは再生できません。ZIP化していますので、解凍してご利用ください。
編集の際には、braw読み込みに必要なプラグインソフト「Blackmagic RAW」のインストールが必要です(BMDのサポートページ左端の「最新のダウンロード情報」からダウンロード可能、7月24日現在の最新版はver1.8)。その上で、DaVinci Resolve 16の無償版で読み込み・編集が可能です。「Blackmagic RAW」をインストールせずにDaVinci Resolve単体だと、たぶん読み込めないと思います。Edius Pro 9でも読み込めるようですが、私のほうでは動作は確認していません。編集にはある程度の性能のGPU(グラフィックボード)が必要です。
動画用圧縮RAWの開発メーカーやカメラ情報サイトもサンプルファイルを配布しています。私はこれらのサンプルを試しに読み込んでみて、意外に負荷が軽かったので、BMPCC4Kを試してみようという気になりました。
最後のRED社は動画用圧縮RAWの開発の元祖です。2000年代後半の登場時点では完全にプロ向けで、REDCODE RAWファイルのデコードにはそれ専用のハードウェアの増設が必要なほど処理が重いと何かの記事で読んだように思います。当時はあらゆる面で素人にはとても手が出せるものではありませんでした。それが今では、解像度にもよりますが一般向けの汎用のGPUでもデコードが可能になっており、ハードウェアの進歩に隔世の感があります。
ここまで書いてきたようなメリットのあるRAW撮影ですが、デメリットももちろんあります。
通常のMP4動画では、カメラがRAWデータに対してノイズリダクションを始め見栄えを良くするための様々な加工を施しており、録画設定の範疇で最大限綺麗に見えるよう、メモリーカードに記録された時点で完成しています。
一方、RAW動画はノイズリダクションなどの加工は基本的にはなく、撮影者が自分で編集ソフトを用いて必要に応じた加工を施さなければなりません。高いISO感度で少し露出暗めのシーンをRAWで撮って、編集時にシーンの暗部(影になっていたり光があまりあたっていない暗い部分)を見てみると、ノイズリダクション前のセンサーデータの暗部にはこんなにノイズが載っていたのか、というのがよくわかります。
写真のRAWを触ったことがある方ならよくご存じかと思いますが、現場でホワイトバランスと露出をしっかり適切に設定して撮影したJPEG写真に比べて、RAWだからといってそれよりも高画質なJPEG写真を出力できるわけではありません。この点はMP4動画とRAW動画についてもまったく同様です。
編集段階でのダイナミックレンジの広さ、露出やホワイトバランスの柔軟性は、自主映画やミュージックビデオなどで映像をとことん作り込みたい場合には他に代えがたいメリットとなるかもしれませんが、私がふだん撮影しているような単なる記録映像で、現場での設定不足をカバーするためだけの用途であれば、どこまで大きなメリットを見いだせるか、撮影者の考え方により様々だと思います。
そして何より、現状ではまだ対応機種が少なく、選択肢が限られるのがネックです。たとえば今回選んだBMPCC4Kにはコンティニュアスオートフォーカス機能(追尾AF機能)がなく、一般的なデジカメでいうところのシングルAFのみしかありません。そのため動く被写体に自動的にピントを合わせ続けるということができません。製品名のとおり「シネマカメラ」なのでAFを重視しないのは仕方ないかもしれませんが、普通のデジカメの便利さに慣れた身には使いにくいです。ピント面の変化が比較的少ない、モデルさん1人での絵の具撮影には辛うじて投入可能ですが、それよりもピント面の変化が多くなるモデルさん2人によるパイ投げ撮影に使おうとは思いません。
他社のRAW動画対応製品も、RAW動画の記録には高価な外付けのレコーダーが必要だったり、まだまだハードルが高いと思います。やはり対応機種の増加が望まれます。
上に挙げたようなデメリットはありますが、写真のRAWのように気軽に使える選択肢の一つとしてRAW動画が普及することは撮影者にとって間違いなく有益だと思います。もっと多くの機種に採用されるようになれば、わざわざRAW動画目的で特定の限られた機種から選ぶ必要がなくなり、日頃使っているデジカメ1台で、大半のシーンをMP4で収録しつつ、ここぞという場面だけRAWを使う、といった使い方も可能になります。そこまでの状況が到来するほどRAW動画に需要があるだろうかと考えると若干心許ないですが、とりあえずは今のところ対応機種は増加傾向にあるので、しばらく期待したいと思います。
MP4動画に比べてRAW動画が高画質というわけではない、と書きましたが、RAW動画の長所を最大限に引き出せるかもしれないのが、HDR(ハイダイナミックレンジ)による動画の書き出しです。
写真のRAW現像でのHDR機能や写真撮影時のHDR合成機能と違って、動画のHDRはガンマカーブ自体が異なっていて、視聴にはHDR対応のディスプレイが必要になります。現在国内で販売されている4KテレビのほとんどはHDR対応ですが、従来のテレビやPC用モニターはHDR非対応のものが多く、視聴環境がじゅうぶんに普及しているとは言えません。
HDR動画に関しても、対応機種であれば、カメラ内で最初から完成されたHDR動画として記録することは可能です。しかし、HDRはSDR以上に仕上げの自由度が大きいため、カメラでの記録の時点で特定のルック(見栄え)にしてしまうのは勿体ない感じがします。あまり正確な喩えではないですが、SDRではRAWから書き出すときの設定の正解の幅がとても狭いのに対し、HDRの場合には正解の幅がとても広い、というような感じのイメージです。そのため、最終的にHDR書き出しが目的の場合には、RAWで記録する利点はおそらくSDRの場合以上に大きいと思います。
明暗差の大きい動画はHDRの得意とするところです。露出補正のサンプルのところでも掲載した「ペイント体験その36」のクリップのHDR版を載せておきます。SDR版に比べて、シーンごとの露出設定を変化させていないのに白飛び黒つぶれを回避できます。
HDR対応モニターをお持ちでしたら、以下の動画ファイルをダウンロードしていただき、Windows・MacのHDR設定をオンにした上で、VLCメディアプレーヤーにて再生してください。
Windows・MacのVLCメディアプレーヤーの他、USBメモリーにコピーして、4K対応BDレコーダーや4KテレビのUSBメディア機能で再生することも可能です。
YouTube・VimeoはHDR対応なので上記動画を掲載してみましたが、私の環境ではオリジナル動画ファイルのVLC再生・YouTube・Vimeoでいずれも微妙に明るさが違っていました。VLCで再生したときの見え方が私の意図したものだったのですが、私のエンコード時の設定が拙いのか、Vimeo・YouTube側に原因があるのか、よくわかりません。YouTube・Vimeoに関しては、HDR絡みの挙動をもう少しよく調べてから掲載したいと思います。
また、HDRは、照明など撮影環境を完全には制御できないような(ふだん私がしているような)小規模の撮影にこそむしろメリットが大きいのではないか、という気もしています。
照明を完全に制御できるハイエンドな撮影環境であれば、SDRの範疇に綺麗に映像が収まるように撮影プラン全体を設計することも可能だと思いますが、私がふだんしているようなホテル撮影且つ貧弱なポータブルライトという環境では照明の完全な制御からは程遠く、同じ画面内や連続する時間軸で意図しない不要な明暗差が生じることが多々あります。そのような中で、BMPCC4Kの撮影素材の編集に関して試行錯誤を重ねる過程でSDR・HDR両方で書き出してみたところ、HDRで書き出したほうが全体的に自然に見えるような印象を持ちました。
それ以前はHDRにはあまり興味がなかったのですが、上記のことに気付けただけでもRAWを試した価値はあったと思います。こういった「ある程度のボリュームを見たときに感じる自然さ」は短いクリップによる例示ではなかなか伝わりにくいと思いますので、どのようにしたら良さをお伝えできるか、難しいところです。
カジュアルな撮影環境でも(あるいはそれだからこそ)HDRの良さが活きる、という捉え方ですが、これについてはもう少し実験を重ねて、後日機会があれば、またページを改めてリポートを載せたいと思います。
【2020年12月12日】「HDR版の作品フルバージョンを無償頒布してみる」を掲載しました。