Top > Works > デジカメの高性能動画機種をまとめてみる (2020年1月26日Twitterから先行掲載、8月2日更新)

デジカメの高性能動画機種をまとめてみる

以前、デジカメ・ビデオカメラで4K動画機能が普及し始めた時期に「デジカメ・ビデオカメラの4K動画時の焦点距離をまとめてみる」と題したページを作成しましたが、その後、対応機種の増加に伴って情報収集が追いつかなくなり、ここ1年半ほどは更新が止まっていました。

このページでは、改めて対象を絞り込み、各メーカーのデジカメの中でも動画機能が充実したものに焦点を当てて、それらの機能を一覧でまとめてみました。取り上げる基準としては、主要デジカメメーカーの4K60P対応機かRAW動画対応機、いずれもない場合はフラッグシップ機としています。一部、アマチュア向け低価格シネマカメラも含めてみました。

最近は上位機種であれば4K動画時でも画角が狭くならないものが多くなりましたが、一方では、機種ごとに細かな制約があったりします。たとえば「60fpsだと少し画角が狭くなる」・「60fpsは時間制限あり」・「イントラ圧縮は30fpsまで」といったような事例です。それらをわかりやすい形で整理できないかと思い、こうした表を作ってみました。

ただし、このページでは機能ごとの有無やカタログ上のスペックについてまとめているのみで、実際に使った場合の性能や評価には触れていません。実際にカメラを選ぶにしても、このようなスペックシートよりも実際に使ってみての使い勝手のほうがよほど重要ですので、あくまで参考程度にご覧ください。

一覧表

一覧表1 基本情報

「QUHD」は7680x4320、「UHD」は3840x2160、「DCI4K」は4096x2160、「FHD」は1920x1080を指します。フレームレートは字数の都合で「fps」ではなく「p」で示しました。

センサー

画素数とサイズです。「MF」は中判、「FF」はフルフレーム(フルサイズ)、「AC」はAPS-C、「4/3」はマイクロフォーサーズです。

4K読み出し範囲

4K動画時の読み出し領域です。「全幅」はアスペクト比3:2または4:3のセンサーから横幅いっぱいを使って16:9または17:9領域を読み出します。「全画素」の機種は、マルチアスペクトセンサーまたはアスペクト比16:9か17:9のセンサー搭載で、文字通り全画素を読み出します。一般的な商品説明では、ここでの「全幅」のほうも全画素読み出しに含めている場合が多いと思います。全幅または全画素の機種は、4K動画時にも画角が狭くなりません。

読み出し領域をクロップする機種については、クロップ領域の画素数または相当するセンサーサイズを記載しています。フレームレートなどにより複数の読み出し領域を使い分ける機種の場合は、「読出範囲1」・同「2」に分けて載せました。

クロップ倍率

4K動画時の画角の狭まり方を示します。「1.5倍」ならば、35mm判換算24mmのレンズを付けると、4K動画時には換算36mmの画角になります。アスペクト比3:2、4:3のセンサーから横幅いっぱいの16:9の領域を読み出した場合、クロップ倍率はそれぞれ「1.05倍」「1.09倍」になります。換算24mmはそれぞれ25mm・26mmになりますが、この程度であればほぼ画角が変わらないと言ってよいのではないかと思います。

IBIS

ボディ内手ぶれ補正機能の有無です。搭載の場合はメーカー公称の補正段数を載せています。

カード

記録メディアです。「CFexB」はCFexpress Type B、「CFexA」は同・Type Aです。「x2」となっているのはダブルスロットです。XQDは本体側のアップデートによりCFexpressにも対応できる場合があります。

SSD

USB接続による外付けSSDへの記録が可能かどうかを示します。

最大動画

動画時の最大記録画素数と、そのときのフレームレートです。

60fps

4K60Pへの対応の有無を示します。対応の場合、60fpsで記録できる最大画素数を載せています。

RAW

RAW動画への対応状況です。「内部」は本体への記録(外付けSSDを含む)、「外部」はHDMI出力+外部レコーダーによる対応を表します。RAW動画時の最大フレームレートも付しています。

Log

Logガンマカーブによる動画記録への対応を示します。「外部」となっているものは、HDMI出力でのみLogに対応します。

HFR

滑らかなスローモーションを撮る「ハイフレームレート動画」の機能です。最大画素数とフレームレートを載せています。

連続時間

4K動画の連続録画時間です。*印があるものはフレームレートや録画モードによっては違った時間になり、それについては一覧表3の「制限事項など」の欄に載せています。

一覧表2 記録モード

最近のデジカメには様々な動画記録モードが用意されています。目的別にわかりやすく整理できないかと思ったのですが、今ひとつわかりにくい表になったかもしれません。各欄の記載は、「記録画素数・フレームレート・動画コーデック・色ビット深度・色情報サンプリング比(RAW以外の場合)・平均ビットレート・そのときの読み出し範囲(クロップの場合はクロップ倍率)」を示しています。

今後、4K以上の高画素記録への対応と60fpsへの対応が並行して進むと、今以上に記録画素数・画角・フレームレートの関係が複雑になっていくかもしれません。クロップ無し・低圧縮・60fpsに対応した上で下記3種類の欄がすべて同じ記録フォーマット・同じ画角になるのが制限の少ない理想の仕様とも言えます。2020年1月現在、1D X Mark IIIとBMPCC4Kがそれに該当しますが、前者は超高価で、後者は普通のデジカメのような使いやすさがありません。(【8月2日追記】ソニーα7S iiiも該当します。)

低圧縮・色情報・広角優先

本体内での動画記録モードのうち、もっとも低圧縮で記録できる録画モード、色情報が豊富な録画モード、画角が広い録画モードです。これら3つはほとんどの機種で同じ記録モードになるため、一つにまとめました。低圧縮は、RAW→なければオールイントラ(フレーム内圧縮)→それもなければフレーム間圧縮のうちもっともビットレートが高いモード、という優先順位になります。「IPB」はAVCやHEVCでのフレーム間圧縮を指します。RAW動画については後述の項目もご覧ください。

記録画素数優先

もっとも高画素で記録した場合のフォーマットです。最近はセンサー全幅で読み出した上、ダウンサンプリングせずに4K以上の解像度で記録するカメラも出始めています。ただし記録画素数を優先した場合には、フレームレートが制限される場合が多いようです。

フレームレート優先

UHD以上の60pで録画した場合のフォーマットです。UHD以上の60pに非対応の場合は30pなどの記録フォーマットを記入しています。

一覧表3 外部連携、制限事項など

HDMI・RAW出力

HDMI経由でのRAW映像信号出力の可否です。出力できる場合は、画素数・フレームレート・ビット深度・撮像範囲(クロップの場合はクロップ倍率)を記載しました。出力できる機種は、外部レコーダーとの連携でRAW動画記録が可能になります。

HDMI・YUV出力

これまでのデジカメにも搭載されていた、一般的な映像信号による出力です。10bit/8bit、4:2:2/4:2:0など細かな仕様の違いがあり、カタログや商品説明から読み取れる範囲で整理しました。「4K」とのみ記載している場合、DCI4Kも出力できるのか、それともUHDのみか、未確認です。

ますます強まるデジカメの動画志向

最近の傾向…全幅読み出し、60fps対応、HDR、高画素記録、RAW

スマートフォンのカメラの高性能化に伴い、デジカメの販売台数は世界的に大幅な減少傾向にあります。そのためどのメーカーも付加価値の高い高性能機種、中でもレンズ交換式カメラの上位機種に特に力を入れています。その際、少しでも潜在的なユーザー層の幅を広げていくためにも、デジカメの動画機能の高性能化はメーカーにとって積極的に取り組まざるをえない重要な課題となっているようです。もはや写真機能のみで新規需要を喚起するのは難しいのか、「デジカメの動画志向」は今後強まりこそすれ、弱まることはなさそうです。

最近の各メーカーの新機種の傾向として、4K動画時でも30fpsのときにはセンサー横幅いっぱいを読み出して画角が狭くならない機種がようやく大半を占めるようになってきました。特に上位機種であればどのメーカーもほぼそうなっています。この点はやっとフルHD時代に追いついたと言えます。また、60fpsに対応する機種も徐々に増えてきましたが、画像エンジンの負荷がまだ高いのか、対応機種の数は全幅読み出しほどではありません。60fpsのときには少し画角が狭くなる機種が多いようで、2020年1月時点で4K60Pでも横幅いっぱいを読み出すのは、国内メーカーに限ればパナソニックGH5とその派生機GH5S・G9、それに近々発売のキヤノン1D Mark IIIのみです。

また、2018年12月にBSの4K放送が始まり(4K-BS視聴リポート)、そこでもHDRが採用されていますが、デジカメ動画でも従来よりも広いダイナミックレンジで記録するHDR(ハイダイナミックレンジ)への対応が謳われるようになりました。色深度10bit・特殊なLogガンマカーブでの記録に対応した機種であれば、編集ソフトでHDR動画を仕上げることが可能です。機種によってはカメラ設定のみでHDRの規格の一つであるHLG(ハイブリッドログガンマ)で記録できるものがあります。

さらに、写真向けの高画素センサーで4K動画時の全幅読み出しをする副産物として、5K・6K動画など、4K以上の高解像度に対応する機種が一部に出始めました。たとえば6000x4000の2400万画素センサーで横幅いっぱいを読み出して、それを4K画素にリサイズせず、そのままエンコードすれば6K動画になります。従来、画素数などの「数字」はメーカーにとって良くもわるくも商品アピールの要とされてきましたが、その点からもおそらく高画素動画対応はユーザーの必要性とは別のところで進んでいくかもしれません。あるいは、8K動画対応への助走とも言えます。

そしてここ1~2年ほど、新たなトレンドの一つとなりそうなのがRAW動画への対応です(AV Watchの2018年4月の記事)。これまでデジカメ動画や民生用ビデオカメラではMPEG-2・AVC・HEVCなど高圧縮のフォーマットで記録するのが主流でしたが、動画でも圧縮前のRAW信号を記録あるいは出力できるデジカメが出始めています。

そもそもRAWとは?

写真や動画のRAWについて技術的に詳しい説明をすると長くなるので、ここでは少々不正確な形でごくごく簡単に要約しますが、一般に、デジカメの写真や動画は、
【1】イメージセンサーとカラーフィルターがレンズを通して受け取った光の明暗と色成分を電気信号(RAW信号)に変換→→
【2】画像処理エンジンがRAW信号を受け取って、ノイズ除去・歪みの整形・色の調整などの処理を加えた上でRGBまたはYUVの非圧縮信号を生成→→
【3】さらに画像処理エンジンがRGB・YUV非圧縮信号に対して不要部分の切り捨てや強度の圧縮といった処理を加え、最終的にカードに記録する圧縮信号を生成
という過程を経てSDカードなどに記録されています。(詳しい説明はWikipedia「RAW画像」などをご参照ください。)

【3】の圧縮信号は、それ以上あまり加工する必要のない最終形であるという前提で、【1】のRAW信号からかなりの情報を切り捨てた上で生成されています。そのため、【3】の仕上がりに調整したい箇所があっても、極端な調整はできません。特に、写真・動画のイメージを大きく左右するホワイトバランスと露出は【1】のRAW信号であれば比較的大きな調整幅がありますが、【2】【3】の過程で撮影時の設定パラメータに基づいて不可逆的な処理が行われ、完成した【3】の圧縮信号では、調整の余地は僅かしかありません。

従来、デジカメ動画や民生用ビデオカメラでは、【3】の圧縮信号の記録のみが可能でした。動画に力を入れた機種でも、【2】【3】の過程でなるべく圧縮率を低くするモードを提供するのが精一杯でした。一方、写真では、【1】のRAW信号をカードに記録し、ユーザーが自分のパソコンで自由に【2】【3】のプロセスを行うことが可能でした。RAWに関しては、写真と動画で大きく状況が違っていたわけです。例外は、Blackmagic Design社が2014年にフルHD解像度のRAW動画機を出していたくらいです。

動画のRAWの障壁となっていたのは、一つには容量です。たとえば、3840x2160ピクセルの画像の12bit RAW信号は、1枚で約12MBになります。動画の場合、1秒に24~60フレームありますので、24fpsだと1秒288MB、60fpsでは1秒720MBにもなります。24fpsでも、64GBのSDカードに、3~4分しか記録できません。またそもそも、一般的なSDカードは1秒250MBを超えるような転送速度に対応していません。

もう一つはパソコンの処理能力で、4K・30Pの12bit 無圧縮RAW動画をリアルタイムでコマ落ちなく再生するには、かなりのハイスペックが必要でした。その点でも、1枚のRAW写真を展開するのに数秒かかってもよい写真に比べると、前提条件に雲泥の差がありました。

ついにRAW動画のハードルが下がった

しかしその状況を変えたのが、一般PC向けの画像処理プロセッサー(GPU)の高性能化に加えて、非可逆圧縮(一部情報を切り捨てる圧縮)と独自の工夫を採用した高圧縮の動画用RAWフォーマットの登場です。後者に関しては登場は比較的最近で、2018年にApple社が「Apple ProRes RAW」を、2019年にBlackmagic Design社が「Blackmagic RAW」を、それぞれ発表しました。動画用圧縮RAWという発想や技術自体はデジタルシネマカメラメーカーのRED社が2007年からプロ向けに採用していましたが、当時はまだ通常のPCで扱うには重いもので、今に至るまで一般向けには提供されていませんでした。

ProRes RAWは無圧縮に比して1/3~1/8程度、Blackmagic RAWは1/3~1/12程度の圧縮率を実現し、しかも一定程度以上の性能のGPUを搭載したパソコンであれば、ストレスなく扱える現実的なものに仕上がっています。またキヤノンも、業務用シネマカメラの一部機種に圧縮率1/3~1/5ほどの「Cinema Raw Light」を採用していましたが、2020年2月にはデジカメの1D X Mark IIIにも載せることになっています。

動画用圧縮RAWは、先述のように非可逆圧縮を採用しています。厳密には無圧縮のRAWに比べて信号の劣化があるはずですが、通常の実写映像を前提とする限り、実用上、劣化を明確に感知できるような場面はほぼないそうです。RAWは本来は無圧縮を含意しており、「非可逆圧縮のRAW」は形容矛盾なのですが、デジカメや低価格シネマカメラの動画用RAWではむしろそれが標準になりそうです。

Blackmagic RAWのテストクリップ

実用性と趣味性

写真の場合と同様に、RAW動画では従来のAVC圧縮とは比べものにならないほどの露出や色の調整幅を得られるため、実用上のメリットはもちろん大きいと思います。それだけでなく、RAW動画は動画撮影の趣味性を高めることにもなります。

今から12年ほど前、デジタル一眼カメラが動画機能に対応し始めたことによって、それまでアマチュアには手が届かなかった「撮像面の大きいレンズ交換式カメラで動画を撮る」ことが可能になり、動画を撮るということの趣味性・娯楽性は格段に広がりました。今度のRAW動画の登場は、趣味性・娯楽性への影響という点で「デジイチ動画の登場」に比肩するかもしれません。

人が何らかの趣味や娯楽に入れ込む際、熱中の度合いを左右する要素の一つが、「その趣味でアウトプットや成果を得るために、道具であれプロセスであれ、どれくらい自由にカスタマイズできるのか」という点です。これは実用性の世界とはまったく違った尺度です。RAW動画はまさにカスタマイズ性の拡大に相当し、その点ではようやく「動画趣味」が「写真趣味」の尻尾に手が届いたと言えるかもしれません。

もちろん、「加工不要の高画質映像が手頃なファイルサイズで簡単に撮れる」という従来のデジカメ動画の方向性もこれまで以上に進化していくと思いますが、その路線は必然的にスマートフォンと競合します。写真や動画の画質でスマートフォンを上回っても、携帯性・必要性・価格といったような観点では、デジカメの勝ち目はないでしょう。手軽さとは対極のRAW動画のような方向性もまた、デジカメの存在意義として重要になってくるのではないかと思います。

またRAWにはデメリットも多々あり、写真の場合と同じく、ノイズリダクションもレンズの歪曲収差の補正も、必要であればすべてユーザーがパソコンで処理しなければなりません。それも含めてのカスタマイズ性ということになります。

RAW動画への対応の状況

デジカメのRAW動画機能の採用はまだ一部機種で始まったばかりです。カメラ内でRAW動画記録に対応する機種と、HDMI経由でカメラからRAW動画信号を出力してサードパーティー製の外部レコーダー(Atomos NINJA V)に録画する機種とがあり、2020年1月時点で、前者はキヤノン1D X Mark III・シグマfp・BMPCC4K・BMPCC6K、後者にはニコンZ6・Z7・パナソニックS1H(対応予定)があります。

ご参考まで、RAW動画の規格一覧と、ビットレートの比較表を掲載しておきます。

RAW動画規格一覧

2020年現在、デジカメ・低価格シネマカメラで採用されているRAW動画の規格一覧です。先ほどの説明では高圧縮を強調しましたが、記録メディアの高性能化に伴い無圧縮記録もなんとか可能になっており、シグマfpのカメラ内RAW動画記録は無圧縮です。

ビットレートや記録時間の比較表

UHD・30fps・12bitの圧縮率別のビットレートです。RAWの容量は概ねビット深度・画素数・フレームレートに比例するため、記録時間はUHD・60fpsの場合は下記の半分、24fpsの場合は1.25倍になります。10bit RAWの場合には記録時間は1.2倍になります。比較のため、AVC All-IとAVC IPBのビットレート、8Kの圧縮RAWと1D X Mark IIIの5.5K圧縮RAWの数値も入れました。

メーカーの仕様表ではビットレートは1000x1000bitを1メガビットとしている場合がありますが、ここでは1024x1024bitを1メガビットとしています。

オールイントラ記録・10bit記録・Log記録は微妙なポジションになっていく?

RAW動画のハードルの低下により重要性や位置づけがやや微妙になってくるのが、それまで高性能動画機の指標だったオールイントラ圧縮記録や色深度10bit記録、Log記録です。

従来、デジカメ動画・ビデオカメラでは、色信号のフォーマットは「YUV 8bit 4:2:0」、圧縮方法は複数のフレームにまたがって圧縮を施す「フレーム間圧縮」、ガンマカーブにはそのままテレビに映して違和感のない標準のカーブを用いるのが基本でした。それに対して、より豊富な色情報や階調を残せる「8bit 4:2:2」・「10bit 4:2:2」、複数のフレームを跨がずに1つ1つのフレーム内だけで圧縮を完結させる「イントラフレーム圧縮」、より豊かなダイナミックレンジを特殊なガンマカーブに押し込めて編集時に階調や色の調整幅を広げる「Log記録」を採用した機種は、デジカメ・ビデオカメラにRAW動画という選択肢がない中で、代替的な解決策でした。

しかし録画フォーマットとビットレートの対応表からも伺える通り、オールイントラ記録と圧縮RAW記録は、それほど容量が違いません。それならば、いっそのこと圧縮RAW記録を採用したい、というユーザーも出てくると思います。写真の世界では、特殊なガンマカーブでJPEGを記録してそれをPCで色調整するという中途半端な選択肢はなく、調整が前提であればRAWで撮ります。

今のところ、RAW動画採用機種では、RAW動画時にはオートフォーカスの働きが制限されるなど何らかの制約がある場合が多いようです。AVCやHEVCのオールイントラ記録・10bit記録にそれらの制約がなければまだRAW動画にはないメリットが残っているとも言えますが、RAW動画使用時の機能的制約が少なくなっていけば、オールイントラ記録・10bit記録の相対的な重要性はさらに下がっていくものと思われます。もちろん、最終的な配布フォーマットとしての色深度10bitのメリットはありますが、マスター素材をなるべく低圧縮で残したい場合やHDRに本格的に対応したい場合には、10bitのYUVよりも12bitのRAWのほうが有利な選択肢となるでしょう。

デジカメ市場縮小の着地点

ただ、デジカメがどれだけ動画に力を入れたところで、あるいは他の面で少々の進化をしたところで、様々な統計やニュースが示すところによると、デジカメ販売台数の減少傾向はまだしばらく続きそうな雰囲気です。デジカメの出荷台数は、ピークの年と2018年を比較すると、日本で4分の1、世界で6分の1まで減少しています。うち、レンズ交換式は日本・世界ともピーク時の半分になっています(細かい数字は以前に典拠とともにTwitterで書いていますので、Twilogをご参照ください)。

一部のメーカーを除いて安価なエントリー機種を数多く売って利益を稼ぐという薄利多売スタイルは成立しなくなっているらしく、ここ最近、各メーカーの上位機種は後継機発売のたびに価格が上昇する傾向があります。問題は、この縮小傾向がどこで下げ止まるかということでしょう。

市場規模がどうなったところで個人のユーザーには関係ない、自分にあった選択肢が残るならそれでいいとも言えるのですが、もっとも怖いのは、選択肢が、スマホかさもなくば高価なハイアマ・プロ向けデジカメか、というような二択しかない状況です。さすがにそこまで極端な状況は来ないと思いたいですが、民生用ビデオカメラのジャンルでは既に、動画趣味の人が積極的に選ぶタイプの機種はここ数年ほとんど発売されていません。スマホと高性能デジカメがビデオカメラの需要を奪った結果でもあるのですが、それと並行して、デジカメのエントリークラスの需要がスマホにごっそり奪われました。

レンズ交換式デジカメの場合には、レンズ資産の将来性という問題もあります。市場縮小は、一部メーカーの撤退やレンズマウントの終了にも繋がりかねません。新機種のニュースを楽しみに待ちつつ、メーカーの動向を伝えるニュースにも気を揉まざるを得ない、そんな状況が続きそうな感じです。

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