Top > Videos > 8K動画を試してみる (2022年7月16日掲載、2023年3月5日更新)

8K動画を試してみる

最近、8K動画撮影(記録画素数7680x4320の動画撮影)を試してみましたので、その動画をいくつか掲載します。

上の3個はHDRフォーマットで撮影・掲載していますので、HDR対応モニター・HDR対応スマートフォンをお持ちの方は、HDRでご覧ください。HDR環境以外では自動的にSDR版が再生されますが、YouTubeによるSDR変換の動画はやや薄暗くコントラストに欠けます。4個目の動画のみSDR撮影です。

スマートフォンの場合、端末がHDRに対応していても、YouTubeアプリで見なければHDRになりません。Webページ埋め込みやブラウザ版のYouTubeではSDRになります。

1個目と3個目はサムネイルが似ていますが、中身は少し異なります。

黒絵の具と金粉の作品は、「ペイント体験その43 黒八景編」「ペイント体験その44 金粉八景編」としてXCREAMにて4K SDR版を掲載しています。また、それらの作品をご購入の方を対象に同じ作品の8K HDR版を試験頒布中です。よろしければ「8K HDR版の作品フルバージョンを試験頒布中です」もご参照ください。

8K HDR動画

8K SDR動画

この動画のみSDRです。テスト撮影で公開向けの撮り方をしていなかったため、部分的なクリップのみとなります。

原寸キャプチャ画像

先ほどの4番目のSDR動画から、7680x4320のキャプチャ画像です。拡大画像表示後、さらに画像をクリックまたはタップすると等倍表示されます。

技術的補足と雑感

これより以下は技術面に興味がありましたらどうぞ。

そもそも8K動画とは?

8K動画とは、簡単に言うと記録画素数7680x4320、約3300万画素で撮影する動画です。4K動画(3840x2160、約830万画素)のさらに4倍の記録画素数になります。4Kも8Kもそれぞれ横方向の画素数(4000と8000)に由来しますが、上記のとおり、実際には7.6Kです。映画などの収録向けにやや横幅が広い記録画素数4096x2160の「DCI4K」、それを4倍にした8192x4320の「DCI8K」と呼ばれるものもありますが、YouTubeやNHKの8K衛星放送では7.6Kのほうが使われています。

以前は8KとえいばNHKによる8K衛星放送の試験放送くらいしかコンテンツがなく、YouTubeが比較的早くから8K動画のアップロードに対応していたものの、撮影機材は業務用・デジタルシネマ用のものばかりで、民生用の機材はありませんでした。しかしここ2年ほどの間に、8Kで動画撮影できるデジカメやスマートフォンがいくつか登場し始めました。

実用性・必要性の点ではフルHDで事足りていますし、高精細を求める場合でも4Kでじゅうぶん綺麗だと思います。客観的に見れば、8Kともなると現状でこのようなアマチュアレベルの作品撮影における必要性はほぼなく、そのためこのページは実用を離れた私の趣味的な関心によるものです。

再生や編集は4Kに比べて重いのか?

一見、8Kというと再生が重そうに思えますが、最近のパソコン・スマートフォンのCPU・GPUには、たいてい8K動画の再生支援機能も付いてます。ただし、YouTubeの8KはAV1という最新の圧縮形式を採用しています。AV1の再生支援機能に対応しているCPU・GPUはまだ限られており、未対応の環境ではかなり重いと思います。H.265形式でエンコードした8Kであれば、ここ5年ほどのCPU・GPUの多くが対応しており、楽に再生できると思います。「8K HDR版の作品フルバージョンを試験頒布中です」からH.265エンコードのサンプル動画をダウンロードできますので、気になりましたらそちらもお試しください。CPU・GPUの再生支援機能を前提にすれば、8Kの再生は4KやフルHDと同じくらい軽いです。

編集に関しても、CPU・GPUの再生支援機能を利用するタイプの編集ソフトであれば、そこまで重くはないと思います。ただ、編集では再生支援機能を使えない工程も出てくるため、快適に編集しようとすると、ある程度高性能のCPU・GPUが必要になるようです。編集は再生よりはハードルが高いと思います。8Kのソフトウェアエンコードはものすごく重いため、編集後のエンコードについては、CPU・GPUのエンコード支援機能が事実上必須だと思います。

8K収録にメリットはあるのか?

8K動画から静止画を切り出して等倍表示すれば、8K相応のディテールを確認できるのは当然ですが、そのような特殊な方法ではなく、普通に動画として4Kモニターで視聴した場合に、8K動画ならではの利点はあるのでしょうか。理屈の上での見方と、実際に撮影・視聴しての印象と、それぞれ併記しておきます。

一般に、写真であれ動画であれ、最終的な表示解像度よりも十分に高い解像度で撮影を行うことのメリットは大きいとされています。その点で8K撮影にも利点は存在しています。ただし、最近の4K動画対応ミラーレスカメラは、イメージセンサーから5K~8Kの解像度の信号を読み出し、オーバーサンプリング処理で4K記録しています。つまり5K~8Kで撮影して4Kへとリサイズする処理をカメラの中でおこなっており、そのため8K記録対応でなくても、4Kモニターで見るぶんには最新世代の4Kデジカメはどれも十分に高画質です。

また、8Kモニターで見るメリットは、視覚の専門家の研究によるとそれほど大きくないようです。こちらのAUTOMATONの記事で、一般的な視聴環境において8Kモニターの恩恵があるかどうかについての海外の研究が紹介されています。それによると、人間の1.0の視力で4Kモニターと8Kモニターの違いがわかるには、35型モニターの場合は60センチメートルでの近接視聴が必要で、65型でも1.2メートル以上離れると判別不能になるそうです。8Kと4Kの判別ができる視聴環境は限定的であり、一方で、4Kモニターは比較的恩恵が大きく、一般的な視聴環境においてフルHDモニターとの違いは判別しやすい、とまとめられています。

以上は理論面でのことですが、ここ数か月、実際に何度か8K撮影を試してみたところ、これまで使ってきた4Kカメラとの比較では、解像感の点においてさらに1枚ベールを剥いだような、大変精細な印象を持ちました。ただし比較対象が5年前の機種で、最新の機種ではありません。現在、私は27インチの4Kモニターで8K動画を編集・再生しています。VLCメディアプレイヤーの等倍再生機能を使うと8K動画の中央をクロップして4Kモニターにドットバイドットで表示できます。つまり54型の8Kモニターで表示した場合の中央部分を擬似的に再現できますが、それを見る限りでは、少なくとも近接視聴においては、8K記録・8Kモニター再生のメリットはじゅうぶんありそうに見えます。

最終的な出力が4Kの場合でも、素材を8K記録しておくことで、クロップで4K切り取りできる自由度、つまり後から構図を変える自由度が飛躍的に高まります。最終的な出力がフルHDの場合は、クローズアップと引きの構図を1つの素材で賄うことも可能だと思います。ただ、後者に関しては、フルHDカメラでマルチカメラ収録するほうが撮影から編集までの総合的な手間は少ないだろうと思います。私は8K記録したものは8Kで編集・出力したいと考えていますので、いわゆるこういったクロップ耐性のメリットはあまり利用する機会はないかもしれませんが、一般的にはむしろこの点が大きなメリットと言えるでしょうか。

まだ試し始めたばかりですし、8Kモニターを入手できるのはだいぶ先になるかもしれませんので、もう少し撮影を重ねて、長期的に評価していきたいと思います。

クロップ耐性をテストしてみる【2023年3月5日追記】

8K撮影素材からフルHDの領域をクロップするテスト動画を作成しました。(「パイ投げ体験その34 リバーシ編」より)

SDRで撮るか?HDRで撮るか?

動画の高画質化のトレンドとして、高画素化以外に、SDRからHDRへのダイナミックレンジの拡張があります。HDRはSDRに比べて白飛びが少なく、色域も拡張され、SDRよりも現実に近い自然な見え方を再現することもできれば、SDRにはできない派手な映像を表現することも可能で、表現の幅が大きく広がります。しかし一方で課題として生じるのが、HDR動画の視聴にはHDR対応モニターが必須で、従来のSDRモニターに映す際には適切な変換が必要という点です。

解像度に関しては、8K動画を4KモニターやフルHDモニターに映したり、4K動画をフルHDモニターに映したりすることはまったく問題がないのですが、HDR動画を何も変換せずにSDRモニターに映すと、とても薄暗いあるいは本来より少し薄暗い映像になってしまいます。あらかじめHDRからSDRへ変換しておくか、再生時に自動変換してくれる動画プレイヤーが必要ですが、変換の際にダイナミックレンジかコントラストのいずれかを犠牲にする必要があります。SDRだけを前提とするなら、多くの場合、HDRから変換したSDRよりも、最初からSDR収録をしたものか、RAWやLogで撮ってSDRで書き出したもののほうが、コントラストが高くぱっと見では綺麗に見えます。

とは言え、解像度は8KでダイナミックレンジはSDRではややバランスに欠けるような気がします。8Kの再生支援機能があるハードウェアのほとんどはHDR出力にも対応していますので、公開用の2作品はHDRで撮影を行い、SDR版はHDR版マスターからの変換としました。RAWやLogで撮影してHDR・SDRそれぞれのマスターを書き出せば双方をベストな画質で両立させることが可能ですが、8KのRAWはストレージの必要容量がとても大きく、Logは私の勉強不足でじゅうぶんなノウハウがないことから、今回は断念しました。

今回8K HDRで撮影した2作品のSDR版は、変換に伴いコントラストがやや犠牲になっていて本来の高い解像感を完全には発揮できていないところがありますので、同作品をご購入でHDR対応環境をお持ちの方は、是非試験頒布中の8K HDR版のほうをご覧いただければと思います(「8K HDR版の作品フルバージョンを試験頒布中です」)。

HDR撮影の別のデメリットとして、静止画をキャプチャする方法がかなり限られるという点があります。HDRの静止画は、保存フォーマット・画像ビューアいずれもHDR動画以上に普及していません。キャプチャ方法自体は皆無ではないのですが、それを簡単にご覧いただく方法までを含めて考えると、現時点では選択肢はほぼないと思います。

文字の映り込みには要注意?

記録解像度が上がると、意図せずして画面に映り込んだ文字も読み取りやすくなってしまいます。背面の壁や卓上のちょっとしたメモ、スマートフォンの操作画面の映り込みには、従来以上に要注意かと思います。これは、8Kで撮影したものをそのままの解像度で掲載する場合だけでなく、先述のようなオーバーサンプリング効果を考慮すると、8K撮影したものを4Kに縮小して掲載する場合でも同様だろうと思います。

風景画像で比較してみる

最初の3枚は過去のSD・フルHD・4K動画からのキャプチャ画像、4枚目は最近の8K動画からのキャプチャ画像です。4枚目は容量が12MBほどありますので、開く際はご注意ください。場所が違うため比較に向かないかもしれませんが、屋外の遠景ですので、情報量の違いはわかりやすいかと思います。

8Kモニターへの表示を仮定して、最初の3枚の画像は8Kサイズに拡大しています。SDとフルHDはインターレース素材ですので、その点でも解像度という点では不利です。

1枚目、SDの風景画像を見ると、SD時代の引きの構図は、ディテールというよりは画面全体の情報を総合的に解釈して映っているパーツを解釈していたことが窺えます。たとえば、白いテントの下に人が座っているとすぐにわかりますが、拡大画像の該当部分を見てみると、人がいると認識した箇所にディテールはほとんどありません。人間の画像認識能力、情報補完能力というのはよくできていると感心します。逆に、8Kはとても情報量に富んでいますが、このようなキャプチャではなく動画として見た場合、よほど静止した画面が続かない限りは隅々まで意識して見ることはほぼないと思います。極端に言えば、サムネイルのサイズでも「何が映っているのか」がおおよそはわかりますので、ましてや4Kや8Kは無駄に情報量が多いという見方もできます。

必要性・記録容量・編集の軽さなどを総合的に考えると、現時点ではフルHD~4Kくらいがもっともバランスがとれていて実用的であるのは確かだと思いますが、個人的には、8Kの実用性を超えた過剰な情報量にも惹かれるものがあります。

写真との関係から見る8K動画

なるべく細かな質感が見たい!

ここからはさらに余談となります。私が高画素動画に関心を惹かれたきっかけを遡りますと、自分で撮影を始めるよりもずっと以前、テレビ番組のシーンを集めていた頃に、付着などの質感をなるべく細かく精細に見たい、そのため動画を1コマ単位で細かく分解してそれがわかる最良の1コマを探したい、という興味がありました。自分の撮影であれば同時に写真も撮るのが一つの解決策ではあるのですが、番組のシーンは録画データがすべてですので、動画から静止画キャプチャするしかありません。動画として見た場合にはよくわからないが、静止画キャプチャでは数フレームだけピタッと見えるところがある、といった事例もときどきあり、キャプチャをとる行為自体に面白さがありました。とは言え地上アナログ時代はテレビ番組はさほど高精細ではなく、インターレースという仕組みも動画と写真の垣根を大きくしてしまうものに感じられて、プログレッシブしかない映画の技術に関心を惹かれたりもしました。BSデジタルのHD放送が始まったときには、地上アナログとは比較にならない精細感に感動したものです。

そのように、番組シーンを収集する過程で、写真のクオリティで動画が見られたらベストなのになあ、と思うようになったのが、高画素動画への関心の始まりです。ここで、動画と写真の関係という観点に注目すると、6K動画や8K動画の登場には従来とは異なる特徴を見いだせます。

写真の解像度に(一時的に)動画が追いついた

これまでも動画の記録画素数は、標準画質(約30万画素)からフルHD(約200万画素)へ、フルHDから4K(約830万画素)へと増加してきましたが、写真との関係で見た場合、8K動画(約3300万画素)や6K動画(約2000万画素)は従来の変化とはやや異なる特徴があります。それは、6K~8Kの場合、動画の記録画素数がデジカメ写真の記録画素数の主流に追いついたという点です。2005年に民生用のフルHDビデオカメラが登場したとき、同年発売のデジタル一眼レフカメラの入門機EOS Kiss Digital Nは、800万画素での写真撮影が可能でした。2014年に4K動画機能を載せたデジカメが登場した際に、同じカメラで写真のほうは約1600万画素での撮影が可能でした。動画が精細化してもなお、同時期の写真とは大きな開きがあったわけです。

一方、最近のデジカメで主流の写真の記録画素数は2000万~4000万画素で、6K動画や8K動画は単純に記録画素数だけで見れば写真の主流と並んでいることになります。もちろん、デジカメには既に8K以上の高解像度の写真に対応した機種もありますし、高級機を中心にさらなる高画素化が進みそうです。そのため現在の状況は一時的なものかもしれませんが、「記録画素数において動画と写真が並んだ」という点で、8K動画はデジカメの機能の進化における一つのマイルストーンと言えるかもしれません。

写真の切り取り素材としての動画?

動画の解像度が写真並みに精細化することで、これまで以上に、動画が写真の切り取り用の素材として利用される機会が増えると予想されます。以前より一部のカメラメーカーが4K動画からキャプチャしたフレームを写真として記録する「4Kフォト」といった機能をセールスポイントにしていましたが、6Kや8Kのほうが、よりいっそうそのような用途に向いています。

なお、動画と写真の両方を撮る方であればご存じかと思いますが、動画と写真とではシャッタースピード・絞り・構図・ピントの挙動などの最適解がそれぞれ異なっています。そのためどれだけ動画が精細化しても、「動画作品」と「写真作品」の両方を1つの動画素材だけで賄えるということは、特殊な条件下を除けばほぼありません。たとえば昼間の屋外で写真を撮るときに1/1000秒くらいのシャッタースピードはごく当たり前ですが、そのようなシャッタースピードで動画を撮ると、パラパラとしたコマ落とし動画のような見栄えになってしまいます。そのため、「動画作品」を作るなら動画向きの設定で、「写真作品」を作るなら写真向きの設定で、それぞれ撮影をする必要があります。

しかし、「動画としての自然な映り方を目的とせず、動画データの中から写真として使えるフレームを切り取ることを目的として、写真的な設定・構図で動画を撮る」、すなわち動画作品としては諦めて写真作品の切り取り素材として動画を撮ることは可能です。そして動画が6Kや8Kになることで、それら高解像度の動画から切り取った1フレームは、トリミングをして画角を3:2にすると、条件次第ではもう写真との区別は難しい水準に近づいています。

もちろん、そのようにして動画ファイルから切り取られた1フレームが、従来のようにシャッターを押して撮られた1枚の写真と同じ芸術的価値を持つものとして写真文化の世界に受け容れられるかどうかは、まったく別の問題となります。今日では「写真の連写」と「動画」は技術的にかなり近づきつつあり、その境界線をどのように捉えるのか、写真文化の中で大きなテーマとなるかもしれません。連写機能で撮った中の1コマが写真作品と見做されるのなら、それとほぼ同じクオリティの動画ファイルから切り取った1コマは、やはり写真作品と言えるのか?という課題です。それに関してはここでは掘り下げませんが、なかなか奥の深いテーマだと思います。

最後に

以上、いろいろ書いてきましたが、新しいフォーマットを試すのは純粋に楽しいです。地上アナログ放送の番組録画の際にビデオデッキの機種による僅かな画質差を気にしていた頃を思うと、アマチュアの個人が4Kや8Kで動画撮影ができる現在の状況は隔世の感があり、感慨深いです。これまでも動画撮影に関するこうしたリポート系、考察系の記事をときどき掲載してきましたが、それらをまとめてインデックス代わりになるような記事も、いずれ作成したいと考えています。

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