1965年公開のアメリカ映画「グレートレース」(原題:The Great Race)が、IMAGICA BS(イマジカBS)で1月31日に放送されました。この映画はスラップスティックコメディで、ストーリーの終盤にケーキ工房で主要キャスト全員が巻き込まれる大規模なパイ投げ合戦があります。
パイ投げへと至る流れも含め、映画全体のあらすじはWikipediaに詳しく掲載されていますので、そちらをご参照ください。
パイ合戦はケーキ工房という設定のかなり広い室内で繰り広げられ、白いクリームだけでなく、赤・黄色・水色・紫などカラフルなパイが飛び交います。ヒロインで勝ち気な新聞記者という役どころのナタリー・ウッドも参加し、顔も含め全身にパイを浴びています。
このナタリー・ウッドの映るところを確認していくと、顔の真ん中にあたるようなクリーンヒットはそれほど多くはありませんが、パイ合戦のオチに相当するようなシーンでは顔全体を覆う形でパイをぶつけられ、分厚くクリームが付いています。この最後のシーンは、パイ合戦の中でトニー・カーティス演じる主人公だけが無傷のままパイをうまく避けていたところ、飛んできたパイを顔の真正面に浴びて視界をふさがれたナタリー・ウッドが、手にパイを持ったままよろけて意図せずして主人公の顔にパイをぶつけてしまい、目を開いてそのことに驚くというものです。
パイ合戦は映像上では4分ほどですが、導入部分から上記のシーンまで細かくカット割りして撮られていて、単純に大人数が自由に投げているところをそのままカメラに収める形式ではありません。投げたパイが狙った標的をはずれて別の人物にあたる→その人物が仕返しで投げ返すと別の人物にあたってしまうという繰り返しを基本に投げ合いがどんどんエスカレートしていきます。特に主要キャストが映るところについては、誰が誰を狙ってこういうリアクションをとる、誰と誰がこの台詞を言いながら投げ合うなどが細かく決められ、映像の大半がアドリブ任せではなくシナリオに基づき撮影されたカットで構成されています。クリームの付着をあとから付け直しているところも多く、上記のパイ合戦のオチとなるシーンでも、よろめくところとぶつける直前とでナタリー・ウッドの付着が微妙に変化していて、手で付着を整えたか、または複数のテイクを編集でつなぎ合わせているように思われます。
英語版Wikipediaには当時の雑誌や関連文献をもとにこのパイ合戦についてのエピソードがいくつか掲載されていますが、それによると同シーンの収録は5日間にわたって行われ、約4000個のパイを使用し、撮影費用は当時の金額で20万ドル(当時の日本円で7200万円)、うちパイ代に1万8000ドル(同約650万円)かかったそうです。また、その日の撮影がおわるたびに出演者は写真をとられ、翌日は似たような付着の状態を再現して撮影を再開したこと、最初はパイ投げを楽しんでいた出演者もだんだん辟易していったことなども触れられています。同項目の脚注から出典となる雑誌や書籍のGoogleブックスへのリンクがあり電子化された本文の全文が読めますので、より正確な情報についてはそちらをご参照ください。
ふつうのバラエティのパイ投げとはだいぶ趣が違っていますが、撮影の規模や意図する映像を作り出すためにかけられた手間などの点で、あまり他にないタイプのシーンだと思われます。
2月4日・20日にもリピート放送があります(イマジカBSの放送スケジュール)。