映画「俺にさわると危ないぜ」、1966年公開、2005年2月21日DVD発売

1966年公開の日本映画「俺にさわると危ないぜ」(Wikipedia)にあるシーンのご紹介です。検索していてたまたま情報を見つけ、内容が気になったのでDVDを購入しました。

日活制作、長谷部安春監督のアクションコメディで、原作の小説があるそうですが、かなり設定が変えられているそうです。

大まかな内容としては、海外から日本に一時帰国してきた戦場カメラマンの本堂大介(小林旭)は、機中で見初めたスチュワーデスの沢之内ヨリ子(松原智恵子)をナイトクラブでのデートに誘い出すことに成功しますが、ヨリ子は何者かにさらわれてしまいます。

実は、ヨリ子の亡父は戦時中に沖縄で陸軍参謀をつとめ、終戦時に莫大な金額に相当する金塊を持ち出しどこかに隠したらしいという過去があり、その争奪戦に暴力団・外国人グループ・ヨリ子の亡父の部下だった元軍人一味・謎の女忍者6人組ブラックタイツ団が入り乱れて参戦、ヨリ子は金塊のありかの手がかりを知っているはずだと目されて各グループから付け狙われ、そこに本堂が絡んでヨリ子を救おうとするというストーリーです。

冒頭のナンパとデートのシーン。ヒロインの松原智恵子はこの映画の公開時で21歳、Wikipediaによれば「1967年のブロマイド売り上げでは、吉永小百合、藤純子 (現・富司純子)、和泉雅子、酒井和歌子、内藤洋子などを抑えて、女優部門のトップになっている。都会派の可憐な清純派スターとして絶大な人気を誇り、全盛期の日活を代表する女優の一人だった」(引用)とのことで、人気女優だったようです。




本堂の敵対者のうちブラックタイツ団だけは金塊を追い求める動機が他の欲得尽くの集団とはやや違っていて(そのことは終盤に明かされます)、また駆け引きや状況の成り行きから本堂の味方になって行動する場面もあり、単純な敵役ではない役どころになっています。オープニングのあやしげなダンスシーンより。

詳しいストーリーを知りたい場合はgoo映画紹介をご覧いただくか(リンク先の「『俺にさわると危ないぜ』あらすじ全文」のところをクリックすると、ネタバレありであらすじが読めます)、映画タイトルで検索してみてください。

とにかく最初から最後までツッコミどころが満載で、わかりやすい娯楽作品になっています。Messyな要素が終盤に出てくるシーンの一つの肝になっており、その点でやや珍しいかもしれません。Messyとは直接には関係ないところも混じっていますが、以下、気になったシーンをご紹介してみます。記事が折りたたまれている場合は下のリンクをクリックすると全文が表示されます。

ストーリー序盤、本堂が友人の外国人記者ビルの仲介でヨリ子の叔父を名乗る男とナイトクラブで会うシーン。ステージでは金粉ショーが行われています。本筋にまったく無関係というわけではなく、一応、終盤への伏線になっています。この映画の2年前に「007 ゴールドフィンガー」(2011年7月17日の記事参照)が公開されていて、台詞も含めその影響が窺えます。

本堂「命がけのショーだな」
ビル「んん?」
本堂「あの金粉で体全体を塗りつぶしているとね、皮膚呼吸ができなくなって窒息死するそうだ」
ビル「アンコールはできないわけだな」





この役の二人は、オープニングタイトルでは「ゴールデンスパイダース 望月明 岡玲子」とクレジットされてますが、検索してみてもこの映画以外の情報は見つかりません。

なお、こういったジャンルのサイトをご覧の方ならすでによくご存じかと思いますが、金粉と皮膚呼吸云々の関係は都市伝説であり、実際には全身に金粉(あるいはその他の素材でも)を塗ることで窒息死することはありません。

本堂はいったんはヨリ子の救出に成功し、父親や金塊についてもいろいろ話を聞きます。

なんやかんやあって、ストーリーも終盤にさしかかる頃。元軍人一味は、本堂の行動を追うことで、ヨリ子のもとに残されている亡父の日記帳に何らかの秘密があることを突き止め、それをヨリ子の部屋から奪うことに成功。その日記帳を暴力団・外国人グループらのところへ持ち込みます。悪党が勢揃いした部屋で、それぞれ金塊に対する優先権を主張するものの、日記帳がどのように手がかりになるのか、誰もまだわかっていません。実はヨリ子自身もその日記帳のどこに金塊についての秘密があるのかは知らず、ヨリ子から話を聞いて日記帳を実際に手に取ってみた本堂だけがどうやらその利用方法を察知しているらしいという状況です。

外国人グループ「この日記があの金塊とどうつながるか問題だ」
暴力団「やつに吐かせるんだ!」
元軍人一味「やつは吐かん。さんざん痛めつけてはみたが、どうしても知らねえと言い張りやがるんだ」
暴力団「吐かせるなら手はある。今度はおれたちに任せてもらおうか」


何か考えがある様子の暴力団グループ。その後、本堂の下宿にかくまわれていたヨリ子は何者かに誘拐され、すぐに本堂も元軍人の一味に車で連行されます。連れて行かれた先は、地下にあるらしい自動車整備工場のような一室。暴力団・外国人グループ・元軍人一味が一堂に会し、奥を見ると、後ろ手に縛られ天井につながるチェーンで一定範囲から動けない状態になったヨリ子がいます。救出に入ろうとしますが、当然男たちに制止されます。

ヨリ子「本堂さん!」
本堂「ヨリ子さん!」
暴力団の男(本堂に向かって)「お前は金塊の隠し場所を知らねえそうだな。黙って見てろ!」
本堂「ちくしょう!」


尋問の矛先はヨリ子に向けられますが、知らないの一点張りのヨリ子。下着姿にされます。さらに続く詰問。

男「これはどういう暗号になってんだ!」
ヨリ子「知らない!知らないわよ」
男「よーし、言うようにしてやろう」


男は、塗装用のスプレーガンを手にしてヨリ子に近づき、白い塗料を噴射開始。

ヨリ子「あーああーああー!!!」
本堂「よせ!ちくしょう…。やめねえか!」
男「ヘッヘッヘ、全身塗りつぶされんうちに白状しねえと、皮膚呼吸ができなくなって死ぬって寸法だ……今度は顔のお化粧でいくか」

最近ではなかなかお目にかかれないスタイルの台詞まわしです。






残念なことにここでカットが変わり、顔への噴射は直接映さず、ヨリ子の悲鳴と周囲の男たちのリアクションで想像させる演出になっています。


ついに耐えきれなくなった本堂が「俺が知ってる!」と叫ぶと、噴射が止められ、次に映ったヨリ子の状態は…。


本堂がもうちょっと早くに口を割ればヨリ子は顔にかけられずに済んだのに…。しかし映像としてはこれもほんの数秒映るだけで、本堂が日記の秘密を喋るシーンに変わります。本堂「表紙の片方の分厚いところに何か隠してある」、暴力団(表紙を破って)「これだ、まちげえねえ!」。こんな大がかりな拷問をしなくても、ちょっと日記帳をいじり回せばわかりそうなものなのに…。


日記のカラクリが明かされ一堂が色めき立っていると、そこにおもむろに乱入してくるブラックタイツ団! ヨリ子から目を離し、一斉に身構える男たち。


縛られているために動けず、全身白塗りのまま放置状態になるヨリ子。この映画のヒロインです。

混乱の中それぞれ武器を手にしての大立ち回りが始まり、本堂は背後にヨリ子をかばいつつ、先ほどの拷問に使われていたスプレーガンを拾い上げ、噴射される塗料をライターで発火させて、火炎放射器にしてしまいます。


得意顔で前の敵を追い散らしているあいだに、背後のヨリ子は抜き足差し足の外国人グループに連れ去られてしまいます。これも一種の「志村うしろ!」状態でしょうか。


本堂は、乱闘の中で自分をかばって死んでしまったブラックタイツ団のハル江を看取ります。



あたりに誰もいなくなっていることに気づき、ヨリ子を探しに向かいます。地上に戻ると、顔をタオルで隠しているヨリ子が。

本堂「大丈夫か!」
ヨリ子「あなたね…。こんな顔を見せたくないわ」
本堂(やさしく上着を羽織らせ)「さあ…いこう」



車を発車させる本堂。すぐに追っ手の元軍人一味がやってきます。乱闘の収束後からこのときまで、どこにいたのでしょう?

その後の車中にて。

本堂「がまんしてくれよ。スタンドまで行けばシンナーがある。すぐに落とせるよ。」
ヨリ子(嗚咽)
本堂「泣くな、もう助かったんだ」
ヨリ子(嗚咽が高笑いに)

顔を上げると、それはヨリ子ではなく、ブラックタイツ団のフユ子だった!

本堂「きみ!きみは…」
フユ子「身代わりよ。あんたをまくためよ。これ以上あたしたちの仕事に手を出してほしくないから」
本堂「彼女はどうした」
フユ子「男たちがさらって逃げたわ。今あたしの仲間が追ってるはずよ」


しかしこのあとフユ子は追っ手の元軍人一味によって背中を射撃され、瀕死の状態の中、フユ子「ブラジャーをはずして!」→本堂「!?」→フユ子は胸パッド部分に隠していた爆弾を取り出し敵の車に投げて爆破、あの世の道連れに、というような展開があったあと、さらになんやかんやあって、いよいよクライマックスに向かいます。金塊が隠された島に本堂が乗り込み、外国人グループの親玉の館でヨリ子と再会すると…。白塗りは落とされてますが、やはり下着姿で縛られています。


ここで最後の大立ち回りがあり、本堂はヨリ子を救出します。本堂と一緒に島に乗り込んでいたブラックタイツ団のアキ子が自らを犠牲に親玉と刺し違え、悲壮な最期を遂げます。アキ子を看取る本堂、二人のあいだにある絆を感じたのか、それを嫉妬の眼差しで見つめるヨリ子。東京に戻り、東京国際空港でラストシーンをむかえます。






以上、だいたいこんな感じです。顔への噴射シーンがない、さらにその後のアップがないのは、女優側への配慮でしょうか。ストーリー全体をみると、こうした一般向けアクション映画でのヒロインの受難としてはひどい部類に入るもので、そういったシチュエーションがお好きな方には惹かれる部分があるかもしれません。

これで噴射シーンがもう少しきっちり撮られていれば、映画全体の雰囲気やストーリーのばかばかしさと相俟ってさらに印象に残るものになっていたと思いますが、Messy的な観点ではややマイルドなものになっているのが惜しまれます。

塗料は実際に何を使っているのかは不明で、体については実際に何かを吹き付けているように見えますが、顔のあたりはメイクの可能性があります。

ただ、こういうノリや、ツッコミながら見るのがお好きな方であれば、映画自体も楽しめると思います。映像も凝っていて、たとえばブラックタイツ団のメンバーは本堂の命を助ける形で一人また一人とやられていきますが、その背景に映る青いペンキや血で真っ赤に染まった水など、全体にわたって色彩要素が意図的に散りばめられています。その他にも印象的な音楽など、ストーリーの豪快さとはうらはらに、細部まで丁寧に作られていることが窺えます。

DVD化されていて現在でも新品が手に入るくらいの映画ですので、たぶん在庫を持つレンタル店もあるかと思います。気になりましたら本編をご覧ください。記事タイトルのDVD発売日はAmazonに記載の情報に拠りました。

なお、繰り返し書く必要はないとは思いますが、この映画での金粉や塗料に関する設定はすべてフィクションです。実際に皮膚呼吸できなくなることはありませんし、またMessyの専門作品などで使われている塗料は、たいていの場合、水で簡単に落ちる水性のもの(ポスターカラーが代表的です)か、または全然別の液体を塗料に見立てて使用しています。念のため補足しておきます。

映画「俺にさわると危ないぜ」、1966年公開、2005年2月21日DVD発売」への13件のフィードバック

  1. …ですね。スタッフさんが本気だったのか一応念のためだったのかは今となっては分かりませんし、メディア関係者ではない僕が集められる情報は限られていますから、真相は分からないですね。

    ひょっとすると女優さんに対するスタッフさんの気遣いでもあったのかもしれないですね。(具体的な意味がないにしても医師がいるだけで女優さんは安心できるかもしれませんし…)

    himajinさんも作品の撮影時はモデルさんが安心できるような何らかの配慮をされているでしょうから、そういった経験があるのでは?

    • そうですね、配慮はいろいろあります。
      詳しく書くと長くなりますし、ブログの趣旨とも少し違ってくるので、また機会があればサイトのほうで書きたいと思います(^o^)

  2. ツイッターに書かれているhttp://www.moon-leaf.biz/cinema/news/?nid=012nov201500を見たんですが、当時としては(製作者側にとっては)ペイント=危険物というのはそれほどぶっ飛んだ設定ではなかったようですね。

    • 厳密には、当時の設定は「全身にくまなく金粉や塗料を塗ること=危険」であって、当時でも「金粉や塗料=即危険物」っていうわけではないですね。

      • 撮影時に医師が立ち会ったという記事を読んだ当初は、どうしてスタッフ総出で勘違いするようなことがあったのかと思ったんですが、人間の特性として、集団でいるときに1人があることをすると他の人もそれに合わせようとしてしまう傾向があるということなので、おそらく007の撮影現場でも塗料と皮膚呼吸の関連性について疑問を抱いた人がいてもなかなかそれを言い出せなかったんでしょうね。
        塗料と皮膚呼吸の関連性についてちゃんと調べた人がいなければ、ひょっとするとこのサイトのペイント体験もなかったかも知れないですね。

        • 90年代前半には塗料やその他の素材に全身覆われるmessyの専門作品がいくつも出ていましたし、そういうのが世に出るということは、それ以前からそういった行為をプライベートで楽しむ人たちが連綿と存在し続けてきたと思われます。
          また、ショーやアートの世界では金粉表現やボディペイントの長い歴史があります。
          経験的に皮膚呼吸云々が都市伝説に過ぎないことを知っている人は大勢いたと思いますし、そもそも日本ではそういう都市伝説があることすら知らない人も多いので、現在のこういったジャンルの作品と、「ちゃんと調べた人」の有無は、あまり関係ないような気がします(^o^)

          • …ですか。そうすると映画の撮影時に医師まで経ち合わせた007のスタッフさんは赤っ恥だったかもしれませんね。

          • うーん、どうでしょうね。「ゴールドフィンガー」については、リンク先のCinemaLeafの記事にある短い記述だけでは、医師の立ち会いというのが本気中の本気だったのか、それとも大丈夫だろうけど一応立ち会わせとこうか程度のものだったのか、それとも話題作りで本気という設定で立ち会わせた(のが後世に本気として伝わった)のか、詳しい事情がなんとも分かりません。

            少し検索して http://www.snopes.com/movies/films/goldfinger.asp こちらあたりを見るとわりと本気っぽいように読めますが、出典として挙げられている本を見れば、より詳しい事情が分かるかもしれませんね。

            いずれにせよ、今とはいろいろな条件が違っている48年も前の外国映画です。http://www.moon-leaf.biz/cinema/news/?nid=012nov201500 の短い文章と私の補足コメントだけでは、そのときの制作現場の姿勢について何らかの評価をするには、ちょっと情報量が足りないように思います。

  3. この時代の映画。女優なんてプライドの塊みたいなものだから、パイ被弾なんかもそのシーンだけ別人で撮影とか当たり前だった気がします。外国映画で女優が泥レスやったり、パイ被弾したりしてから、またそのころテレビでのアイドルがパイ被弾というにもあって、パイや泥シーンでのフキカエは無くなったように思います。薬師丸ひろ子のコンクリ漬けもフキカエナシでした。
    現代の邦画でも、そろそろ米倉涼子あたりでスラップスティック作ると後世に残ると思うのですけどね。間違ってもAKBなんか使っては後世に残りません。

    • この頃の邦画はあまり見たことなくて、今回は検索でたまたまでした。
      他にも面白そうなもの(messy的に見どころがあるか、またはmessy部分とシチュエーションやストーリーとの絡み具合に面白い要素があるか)があったら、取り上げていきたいと思います。

      近年の映画やドラマのパイ・泥シーンでも、特別な身のこなしを必要とするアクションや常人には難しい姿勢などが混じっている場合には部分的に吹き替えることもありますが、たしかに単によごれ要素があるからというだけでの吹き替えはあまり見かけませんね。

      • 一部に吹き替えがあっても女優さんの顔が映るシーンは基本的に本人ですよね。101や102の該当シーンがそうだったようですが…。
        ちなみに101のメイキング映像を見たんですが、該当シーンの舞台裏は映っていなかったので、どこまでを本人がやっていたのかは結局正確には分かりませんでした。

        http://www.youtube.com/watch?v=6Oqcld_zTog&playnext=1&list=PL0D715B999E61BA8A&feature=results_video

        himajinさんがhttp://twitter.com/route207で紹介されたNono, het Zigzag Kindのメイキング映像のようなものが101にもあるといいんですけどね…。

        • 思い入れのある映画って皆さんそれぞれ様々ですね。
          メイキングは、いったん公開用に編集されたらあとはその使い回しというパターンが多いので(たとえばPR特番にメイキング映像を入れるときも編集済みのメイキングをさらに編集して使うなど)、なかなか追加映像の出現は期待しにくいところがあります。
          チャンスがあるとすれば、DVDやBlu-rayで新装版が出て特典用のメイキング映像を一から編集し直すようなパターンですが、よほどの人気映画でなければそのパターンもあまりないようですね。

          • まさにhimajinさんの言う通りでシーン毎のメイキング映像は通常ではなかなかないんですよね。
            You Tubeなどではよく諸外国向けの特番がupされているので、探せば見られないこともないんですが…。

            ちなみに101は思い入れのある映画といいますか、僕は映画の公開当時はまだ小学生(しかも低学年)だったということもあり、101を見るまでは女優さんのmessyシーンを見たことがなかったんです。
            そんなわけで僕が見た初のmessyシーンとして(というよりも衝撃映像として)鮮明に記憶に残っていますね。

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