Top > Works > DaVinci Resolve・EDIUS・Vegasの動画支援機能の対応状況をまとめてみる (2021年3月13日Twitterから先行掲載)
通常、パソコンの商用ソフトはバージョンアップを重ねて高機能化するうちに古いパソコンでは動作が重くなっていくのが普通ですが、2021年現在、動画編集ソフトに関しては、同じパソコンで使っているのに5年前のバージョンより最新版のほうが軽いという事例があったりします。
これは、各社の動画編集ソフトが、以前あまり利用していなかったCPU・GPUの動画支援機能を最近は積極的に活用するようになっているためです。
そこで、DaVinci Resolve・EDIUS・Vegasの3つの動画編集ソフトに関して、現時点でのCPU・GPUの動画支援機能への対応状況をまとめてみました。ただし定番ソフトのうちPremiere ProやFinal Cut Proなどがなく、その点でまったく不完全な記事ですので、その点はご注意ください。
※下記表の支援機能はビデオカメラ・デジカメで一般的なAVC・HEVC圧縮の動画素材を編集する場合に限ります。
※QSVはインテルCPUによる動画支援、NVIDIA・AMDは各社のグラフィックボードGPUによる動画支援です。
ソフト名 | 価格帯 | デコード(再生)支援 | エンコード支援 | 備考 |
DaVinci Resolve 17 | フリー | × | × | |
DaVinci Resolve Studio 17 | 約39000円 | ○(QSV/NVIDIA/AMD) | ○(QSV/NVIDIA/AMD) | |
EDIUS X Pro | 約54000円 | ○(QSV) | ○(QSV/NVIDIA) | |
EDIUS Pro 9 | 販売終了 | ○(QSV) | ○(QSV/NVIDIA*) | *NVIDIA対応は2020年11月のアップデートより |
EDIUS Pro 8 | 販売終了 | × | ○(QSV) | |
Vegas Pro 18 | 約9000円* | ○(QSV/NVIDIA/AMD) | ○(QSV/NVIDIA/AMD) | *価格はセール時の「Vegas Pro 18」標準パッケージより。 |
Vegas Pro 17 | 販売終了 | ○(QSV/NVIDIA/AMD) | ○(QSV/NVIDIA/AMD) | |
Vegas Pro 16 | 販売終了 | × | ○(QSV/NVIDIA) |
動画支援機能とは、パソコン・スマートフォンのCPUやグラフィックボードのGPUに備わっている、MP4動画(AVC・HEVC圧縮の動画)の再生を低負荷でスムーズに処理するための専用回路です。最近ではほとんどのCPU・GPUに何らかの動画支援機能があり、そのおかげでパソコンに比べてCPUの性能や消費電力に制約のあるスマートフォンでも高画質な動画をスムーズに再生できます。
通常、パソコン・スマートフォンのWebブラウザや動画プレーヤーで動画を再生するとき、動画支援機能はデフォルトで有効になっていて、ふだんその存在を意識する機会はあまりありません。
敢えて動画支援機能を利用せずにCPUのみでもMP4動画の再生は可能ですが、4K60Pなどの高解像度・高フレームレートの動画になってくると、CPUのみでの再生だと重いけど動画支援機能による再生だとスムーズという場合があります。
ところが、2017年頃までの動画編集ソフトの多くは、動画の再生(デコード)時にそれらの動画支援機能を利用せず、CPUのみで再生(デコード)を行うのが主流でした。それらの動画編集ソフトでは、動画の解像度・フレームレートによっては、再生がかなり重くなります。同じ動画ファイルでも、通常の動画再生ソフトで見るときは全然重くないのに、動画編集ソフトでは急に重くなる、ということが起こっていました。
たとえば私のPCのCPUはインテルのCore i7-4770という2013年発売のもので、動画支援機能としてQSV(クイック・シンク・ビデオ)が搭載されています。QSVによって、AVC・4K・60fpsの動画を低負荷で再生できますが、QSVを使わなければ、処理が重くてコマ落ちしてしまい、まともに再生できません。よって、動画編集ソフトも再生時にQSVを利用するものでなければ、私のPCでは4K・60fpsの編集は実用にならないことになります。
ふつうの動画再生ソフトやWebブラウザでは長らく当たり前だった動画再生時の動画支援機能の活用ですが、ここ数年でようやく、各社の動画編集ソフトも対応するようになってきました。
EDIUSシリーズでは2017年11月発売のEDIUS Pro 9から、Vegas Proシリーズでは2019年11月発売のVegas Pro 17からです。
そのため、それらのソフトでは、「5年前に体験版を試したときには重かったのに、同じPCで、今の最新版で試すと軽くなっている」ということがあったりします。
ただし、CPU・GPUの動画支援機能は、ハードウェアの世代ごとに、対応する解像度やコーデック(動画圧縮形式)が決まっています。先ほど書いた2013年発売のCore i7-4770のQSV機能は、一般的な動画圧縮形式「AVC」のデコード・エンコードには対応しますが、そのあとに一般的になった「HEVC」には一切対応していません。一方、CPUのみでの処理の場合、どのような新しい圧縮形式、どのような解像度でも、動画ソフトさえ対応していればデコード・エンコード可能で、柔軟性が高いです。
動画編集ソフトを紹介する記事やレビューには、動画編集には非常に高性能なパソコンが必要となるかのような書き方をしているものもあります。たとえばAV Watchのこちらの記事には「H.265は高画質だが高圧縮なので、従来は相当なハイエンドマシンでない限り、いったん編集用の中間コーデックに変換するか、プロキシを作成してからでないと、とても編集には耐えられなかった」と書かれています。しかし実際には、CPU・GPUの動画支援機能を利用するタイプの動画編集ソフトであれば、ハイエンドマシンではなくても容易に編集可能です。4K60fpsの素材を何トラックも重ねるような編集は別ですが、1つのトラックでカット編集して部分的に字幕を載せる程度の編集であれば、「ここ数年のインテルCore i5以上搭載のパソコン」と「Vegas Pro」で問題なくこなせる場合が多いと思います。
そのような状況ですので、PCを買い換える前に、今一度、最新世代の動画編集ソフトの体験版を試してみることをお勧めします。PCを新調する場合でも、目的の編集が上記のようなカット編集プラスアルファ程度であれば、CPUにインテルCore i5以上またはAMD Ryzen、メモリ16GB以上、OS用のドライブとしてSSD500GB~1TB(ノートPCは1TB推奨)、デスクトップの場合はさらにデータ用ドライブとしてHDD2TBもあればじゅうぶんかと思います。
メーカーの推奨スペックや動画ソフトの紹介記事では、編集する動画ファイル素材を置くデータ用ドライブにもSSDを推奨している場合がありますが、800Mbps(=毎秒100MB)を超えるような高いビットレート動画を編集する場合や、複数の4K動画を同時再生して素材として利用する場合以外は、基本的にはHDDでもじゅうぶん転送速度が間に合います。一般的なデジカメのMP4動画は4Kでもせいぜい200Mbps(=毎秒50MB)程度です。現状、OSを置くシステムドライブはSSD一択だと思いますが、データ用のドライブは容量を優先してHDDでも問題ないと思います。
各ソフトの特徴を簡単にまとめてみます。機能に関しては、どのソフトを選んでも充分です。あとはユーザーのPC環境との相性や自分にとっての使いやすさ、価格とのバランスでお好みのものを選べばいいと思います。無料の体験版が用意されている場合は、それを試してみるのが確実だと思います。
多機能でありながら無償版があるという、非常にコストパフォーマンスの高いソフトです。
ただし、無償版はAVC・HEVCのハードウェアデコードには非対応です。また動作の多くの部分がグラフィックボードのGPUに依存しているため、ある程度の性能のGPUを搭載したPCでなければ、動作が重いようです。そのため軽快に動作させるためのPCのハードウェア要件は厳しいとも言えます。
このソフト向けのグラフィックボードを選ぶに際しては、GPUコアの性能よりもGPUメモリ(VRAM)の容量が重要とのことで、4K動画を編集する場合、8GB以上のGPUメモリを搭載したボードが推奨されています。私はGPUメモリ8GB搭載のグラフィックボードの中で最も安価だったRadeon RX 570のボード(2019年9月の購入当時、実売1万5千円以下)を選びましたが、特に問題なく4K編集ができました。
もう一点、無償版はライセンスの関係でドルビーデジタル音声には非対応であることも要注意です。ドルビーデジタル音声はAVCHD規格のビデオカメラ・デジカメで多く採用されていましたが、それらの素材をDaVinci Resolve無償版で読み込むと無音になります。
最近のデジカメで動画の音声にドルビーデジタルを採用しているものは減っていますが(多くはAACかLPCM)、従来のAVCHD規格の機材で撮影した素材を編集する場合は他のソフトを使う方がいいと思います。この点は以前掲載の「DaVinci Resolveを使ってみる」もご参照ください。
なお、前バージョンのDaVinci Resolve 16無償版はインターレースを綺麗に解除してインターレース縞のない30Pで出力することができず、インタレース素材への本格的な対応は有償版が必要でしたが、最新版の17から無償版でもインターレース素材を扱えるようになりました。
製品名に「Studio」が付いているのが有償版です。無償版はUHD(3840x2160)までですが、有償版は6Kや8Kなど4K以上の高解像度の動画の編集・出力にも対応しています。4Kのうち、DCI-4K(4096x2160)も有償版のみの対応です。
DaVinci Resolve Studioは、ここ数年、12→14→15→16→17とバージョンアップしてきましたが、これらのメジャーバージョンアップのいずれも無償でした。つまり、12の有償版を購入したユーザーは、17の有償版も追加料金なく使えます。サブスクリプション(月額料金で使うタイプのソフト)以外のソフトはメジャーバージョンアップだと買い直しまたは有償更新になる場合が多いでので、この点も太っ腹なところだと思います。
AVC・HEVC素材を編集する場合、有償版と無償版とで動作の軽快感が異なる(有償版のほうがハードウェア支援があるため軽い)のですが、「有償版の無料体験版」は提供されておらず、無償版が体験版の扱いになっています。先述のドルビーデジタル音声への対応も併せ、民生用ビデオカメラの素材、デジカメのAVC・HEVC素材を扱う場合、事実上、無償版は機能制限されていると言えます。
取り上げたソフトの中ではもっとも高価です。
前バージョンのEdius Pro 9までは動画支援機能はインテルQSVのみ対応で、インテル特化型のソフトとも言えるような仕様でした。最新版のX(10)と、2020年11月のアップデート以降の9から、エンコードに関してはNVIDIAも対応するようになっています。最近のAMDのRyzenなど強力なCPUであれば、CPUデコードでも4K60Pはそこまで負担ではないと思いますので、AMD環境でも使えると思います。
前バージョンまで、6Kや8K動画の読み込みには対応していますが、出力は4Kまででした。最新版のX Proでも8K出力は未対応のようで、さらに上位の「EDIUS X Workgroup」が必要となるようです(EDIUS X製品別機能比較表)。
無料体験版があり、インストールから1ヶ月、機能制限なしで試用することができます。
日本ではソースネクストで販売されていますが、ときどき大幅値引きで特価販売される期間があり、その期間中の購入がお勧めです。付属ソフトと組み合わせによっていくつかパッケージがありますが、編集ソフト単体の「VEGAS Pro 18 Edit」だけで充分ですので、「Edit」が数千円で販売されているときがもっともお得です。
インテル・AMD・NVIDIA各種のハードウェアデコードに対応しており、高性能なGPUを必ずしも必要としません。また、8K素材の入力・出力にも対応しています。特価販売時の価格を前提とするなら、もっともバランスがとれていて、コストパフォーマンスが良好と言えるかもしれません。
無料の体験版は、海外では提供されていますが、日本向けではありません。海外の製品サイトよりダウンロード可能で、試用開始にあたってはVegasのアカウント登録が必要です。また、体験版には日本語メニューはなく、英語など外国語で使う必要があります。インストールから1ヶ月、機能制限なく試用できます。なお、ソースネクストは体験版がない代わりに、正常に動作しない場合は購入後30日以内であれば返品可能とのことです(製品ページ内「安心サービス対象製品」の欄にある記述)。
各社の体験版を試していちばんお好みに合うものを使用されるのがいいと思いますが、それも面倒だという場合は、コストパフォーマンスの点でVegas Proがお勧めかと思います。ただし、ソースネクストで割引販売しているとき限定です。動画支援機能もインテル・NVIDIA・AMD各社のCPU・GPUに対応しています。
DaVinci Resolveの無償版は超高性能ですが、CPU・GPUの動画支援機能を使わないため、わりとPCの性能面でのハードルが高いです。GPUの動画支援機能は使えなくても、GPU本体のほうは全般的な動作に必要となりますので、ある程度の性能のグラフィックボードも必須です。無償版でも軽快に動くようなら、DaVinci Resolveがお勧めかと思います。
というわけで、まずはDaVinci Resolve無償版を試してみて、どうにも重いようであればVegas Pro、という順序がいいかもしれません。
Ediusは最新版のX Proになって前バージョンより少し価格が上がったようで、EDIUS X Proと同じ価格で「DaVinci Resolve有償版+ある程度の性能のグラフィックボード」が購入できてしまいます。となると、DaVinci Resolve有償版はこの先のメジャーアップデートでも費用がかからないことから、EDIUSよりもDaVinci Resolveのほうがお勧めかもしれません。